【完全版】マイクロ法人の教科書|個人事業主が「二刀流」で社会保険料を劇的に下げる全手法

売上1,000万が見えたら、思考停止の「個人事業一本足打法」は卒業です。

稼いでも稼いでも、税金と保険料に消えていく…。その「穴の空いたバケツ」を塞ぐ時が来ました。

行政書士 小野馨
こんにちは。

「起業は格闘技だ」が口癖の、行政書士の小野馨です。

5000社以上の設立を見てきましたが、生き残る社長は皆、ルールの隙間ではなく「制度の本質」を突くのが上手いです。

今回は、フリーランスの最強防衛策【マイクロ法人】について解説します。

あなたは今、翌年の「国民健康保険料」の通知を見て、膝から崩れ落ちそうになっていませんか?

稼げば稼ぐほど国に吸い上げられる。年収が上がったはずなのに、手取りが変わらない。

しかし、これを「仕方ない」と諦めるのは、経営者としての怠慢です。

なぜなら、日本の社会保険制度には、合法的に負担を激減させる「裏口」が用意されているからです。

そこで本記事では、現役行政書士が「法律」と「財布」の両面から、個人事業と極小規模の法人を併用する「二刀流(マイクロ法人)」の全貌を解き明かします。

年間数十万円の手取りを確実に増やすための、具体的なロードマップを受け取ってください。

▼ この記事のポイント ▼

  • マイクロ法人とは「社会保険料削減」に特化したハコのこと
  • ✅ 役員報酬「月4.5万円」が最強の最適解である理由
  • ✅ 課税所得300万円を超えたら検討すべき「損益分岐点」
  • ✅ 税理士なし・合同会社でコストを最小化する戦略

※なお、会社設立の基礎知識や電子定款の仕組みを網羅的に知りたい方は、

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マイクロ法人とは?なぜ今「二刀流」が最強の生存戦略なのか

「マイクロ法人」という言葉は、会社法上の正式名称ではありません。

従業員を雇わず、社長一人だけで運営し、事業拡大よりも「個人の手取り最大化」を目的に設立される法人の通称です。

なぜ今、このスタイルが熱狂的に支持されているのか。

それは、多くのフリーランスが「稼ぐ力」はあるのに「守る力」が弱く、税金貧乏に陥っている事実に気づき始めたからです。

まずはこの戦略の全体像を把握しましょう。

[画像指示: 個人事業主とマイクロ法人の二刀流イメージ。天秤の片方に「個人事業(本業)」、もう片方に「マイクロ法人(資産管理など)」が乗っており、バランスを取っているイラスト (推奨ファイル名: micro-corp-structure.jpg, alt: マイクロ法人と個人事業主の二刀流の仕組み)]

【定義】個人事業と法人を使い分ける「二刀流」の仕組み

マイクロ法人(二刀流)とは、「本業の儲けは個人事業で受け取り、社会保険料の支払いは法人で行う」という、制度の歪みを利用したスキームのことです。

多くの起業家が陥る最大の罠、それは「法人を作るなら、全ての事業を法人に移さなければならない(法人成り)」という固定観念です。

真面目な方ほど、「個人事業を残したまま会社を作るなんて、税逃れじゃないか?」と不安になります。

しかし、ここで断言します。

日本の法律(会社法・民法)のどこを探しても、「個人事業主が同時に法人の代表取締役であってはいけない」という条文は存在しません。個人(自然人)と会社(法人)は、法律上完全に別人格です。

あなたがコンビニのアルバイト(給与所得者)をしながら、夜にWeb制作の副業(個人事業主)をしても問題ないように、個人事業主をしながら自分の会社を持つことも、完全に適法な経済活動なのです。

具体的には、ビジネスを以下の2つの「箱」に明確に分けます。

1. 個人事業主(攻めの自分)

利益率が高く、あなたの労働集約的なスキルに依存する「本業(Web制作、エンジニア、コンサル等)」を行います。ここでガッツリ稼ぎ、青色申告特別控除(65万円)や経費を活用して所得を計算します。しかし、ここでの最重要ポイントは「国民健康保険には加入しない」ことです(※法人の社保に入ることで、自動的に国保は脱退となります)。

2. マイクロ法人(守りの自分)

本業とは別の、手間がかからず安定的な「副次的事業(資産管理、事務代行、Webメディア運営等)」を行います。この法人の役割は、売上を最大化することではありません。「あなたを社会保険(健康保険・厚生年金)に加入させること」ただ一点です。極端な話、この会社はトントン(利益ゼロ)でも構いません。

例えば、私のクライアントであるAさん(Webエンジニア)は、プログラミング業務はすべて個人事業で行い、マイクロ法人では「自社開発アプリの運営管理」や「妻の経理代行業務」を行っています。

法人の売上は年間80万円ほどしかありませんが、それで十分なのです。この「割り切り」ができるかどうかが、成功の鍵を握ります。

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【時代背景】インボイス・増税時代にフリーランスが生き残る唯一の道

二刀流が注目される背景には、「個人事業主への締め付け強化」という明確な国の意図があります。

かつて、フリーランスは自由の象徴でした。

しかし、2023年のインボイス制度導入により、状況は一変しました。免税事業者であることのメリットは剥がれ落ち、消費税の納税義務が重くのしかかっています。

さらに、社会保険料率は年々上昇し、国民健康保険料の上限額も引き上げられ続けています。

2024年度以降も、ステルス増税の流れは止まりません。

私の事務所に相談に来た年収1200万円のフリーランスの方が、通帳を見せてくれました。その時の会話を再現します。

👨‍⚖️

実録:行政書士相談室

相談者:「小野先生、見てください。税金と保険料、消費税を払ったら、手取りがサラリーマン時代より減りました…これなら会社員に戻った方がマシです。」

私:「そうですね。今の日本で『高所得の個人事業主』は、最も搾取される階層です。所得税は累進課税で最大45%、住民税10%、事業税5%、そして国保と年金。何の対策もしなければ、利益の50%近くを公的負担で持っていかれるのが現実です。」

相談者:「どうすればいいんですか? もっと売上を上げるしかないですか?」

私:「いいえ、逆です。売上を上げる前に、穴の空いたバケツ(社会保険料)を塞ぐのが先決です。それがマイクロ法人です。」

この過酷な環境下で、マイクロ法人は唯一残された「合法的な防波堤」です。

法人税率は中小企業なら一定(所得800万円以下は約15%〜)ですし、何より後述する「社会保険料の最適化」効果が凄まじい。

国が用意したルールの範囲内で、賢く立ち回る。

これは脱税のようなコソコソした行為ではなく、資本主義社会を生き抜くための「正当防衛」であり、経営者としての「義務」です。

「ただ真面目に働いていれば報われる」という思考停止を捨て、制度をハックする側(経営者側)に回らなければ、あなたの資産は守れません。

💡 3秒でわかるまとめ

  • マイクロ法人は「儲けるため」ではなく「守るため」に作る。
  • 個人事業(本業)と法人(社保用)を明確に分けるのがコツ。
  • 増税・インボイス時代、何もしない個人事業主はジリ貧になる。

【核心】最大のメリットは「社会保険料」の劇的な圧縮にあり

なぜ面倒な登記手続きをしてまで法人を作るのか?

その答えはシンプルに「お金」です。それも、数万円レベルの節約ではありません。

年間数十万円、10年で数百万円規模のキャッシュが手元に残るかどうかの話です。

ここでは、マイクロ法人の最大の存在意義である「社会保険料の圧縮メカニズム」について、行政書士の視点でメスを入れます。

[画像指示: 天秤のイラスト。

左側には重い「国民健康保険・国民年金」が乗り、右側には軽い「協会けんぽ・厚生年金」が乗っている。

お金の袋の大きさで負担の違いを表現 (推奨ファイル名: social-insurance-comparison.jpg, alt: 国保と社保の負担比較)]

【比較】「国保・国民年金」vs「社保・厚生年金」の決定的な違い

社会保険料削減の核心とは、「所得連動型の国保」を捨て、「報酬連動型の社保」に乗り換えることです。

まず、個人事業主が加入する「国民健康保険(国保)」の残酷な仕様を理解してください。

国保の保険料は、あなたの「前年の所得」に対してダイレクトに計算されます。

つまり、本業で頑張って稼げば稼ぐほど、翌年の保険料は青天井で高くなります(上限はありますが、年間100万円近くになることもザラです)。

さらに深刻なのが「扶養」の概念がないことです。

サラリーマンなら妻や子供を扶養に入れれば保険料は変わりませんが、国保は「均等割」といって、家族の人数が増えるほど保険料が加算されます。

例えば、年収600万円で専業主婦の妻と子供2人がいる場合、国保税だけで年間70〜80万円近くになる自治体も珍しくありません。

稼げば稼ぐほど、家族が増えるほど、国保はあなたを苦しめます。しかも、これだけ払っても、将来もらえるのは「国民年金」のみ。老後の支えとしてはあまりに心許ないのが現実です。

一方、法人が加入する「社会保険(健康保険+厚生年金)」は仕組みが異なります。

保険料は、会社が儲かっているかどうかではなく、「役員報酬(給料)をいくらに設定したか」で決まります。

たとえ法人が1億円の利益を出していても、役員報酬が低ければ保険料は安いままなのです。

ここに「バグ」とも言える抜け道があります。

個人事業の方で年商1000万円稼いでいようとも、マイクロ法人からの役員報酬を極限まで低く設定すれば、社会保険料も「最低ランク」で済みます。

さらに、支払うのは「厚生年金」。掛け金は最低レベルなのに、将来受け取る年金は国民年金よりも手厚い(2階建て部分がつく)。

「負担はミニマム、保障はプレミアム」。

この歪みを利用しない手はありません。行政書士として多くの社長を見てきましたが、この仕組みを知っているか知らないかで、生涯の可処分所得には家一軒分くらいの差がつきます。

これは決して大げさな表現ではないのです。

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【裏技】役員報酬を月額4.5万円に設定する理由とは?

マイクロ法人戦略における黄金律、それは「役員報酬を月額45,000円に設定すること」です。

なぜ45,000円なのか。これには明確な法的根拠があります。

健康保険・厚生年金の保険料額表(日本年金機構や協会けんぽが公表)において、最も等級が低い(=保険料が安い)区分が「標準報酬月額58,000円未満(報酬月額63,000円未満)」だからです。

この最低等級(1等級)に該当すれば、健康保険料と厚生年金保険料の合計は、本人負担・会社負担を合わせても月額2万円台前半で済みます(※40歳以上で介護保険料が含まれる場合や地域により微動しますが、概ね2.3万円前後)。年間で計算すると、約27〜30万円程度です。

ここで、よくある相談者との会話を紹介しましょう。

👨‍⚖️

実録:行政書士相談室

相談者:「先生、月4万5千円って…そんな金額で生活できませんよ! 住宅ローンもあるのに。」

私:「誤解しないでください。生活費は、稼ぎ頭である『個人事業(本業)』の利益から出せばいいんですよ。個人事業のお金は自由に使えますから。法人の給料で食う必要はありません。」

相談者:「でも、そんなに給料が安くて、年金事務所に怒られませんか?」

私:「結論、怒られません。会社法や労働法において、役員報酬の下限規定はないからです。最低賃金法も役員(経営者)には適用されません。ただし、法人の売上がゼロなのに報酬を払うのは税務上NGです。だからこそ、『月4.5万円+社会保険料』を賄えるだけの売上(年間80万円程度)を、なんとかマイクロ法人で作る必要があるのです。」

想像してみてください。個人事業主として国保・国民年金を真面目に払えば、年収によっては年間80万〜100万円近く取られます。それが、マイクロ法人という「装置」を通すだけで、年間30万円弱で済むのです。しかも、扶養家族がいる場合、国保なら人数分増える保険料が、社保なら妻や子供を何人扶養に入れてもタダ。追加コストはゼロです。

年間70万円の差額は、10年で700万円、30年で2000万円を超えます。これを「みすみす国に納める」か「自分の老後資金にする」か。経営者としての判断力が問われています。

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💡 3秒でわかるまとめ

  • 国保は「稼ぐほど高い」。社保は「給料設定で安くできる」。
  • 役員報酬を月4.5万円にすれば、社保負担は年間約27万円(最安)。
  • 生活費は個人事業で稼ぎ、法人は社保加入のためだけに使う。

いくらから得する?年収別・損益分岐点シミュレーション

「理屈はわかった。で、私は得するの? 損するの?」
あなたが知りたいのはそこでしょう。

マイクロ法人は魔法ではありません。設立費用や維持費(均等割など)といったコストもかかります。それらを差し引いてもプラスになる「損益分岐点」が存在します。ここでは、感情論抜きに数字だけでシミュレーションを行います。

[画像指示: 棒グラフによるシミュレーション図。横軸に「課税所得(300万/500万/800万)」、縦軸に「手取り額」をとり、個人事業単体の場合とマイクロ法人併用の場合で差が出ることを可視化 (推奨ファイル名: profit-simulation-graph.jpg, alt: 年収別マイクロ法人導入メリットのグラフ)]

【結論】課税所得「300万円」が運命の分岐点になる理由

結論から申し上げます。あなたの個人事業における課税所得(売上-経費-青色申告控除)が「300万円」を超えているか。これが、GOサインを出すかどうかの第一関門です。

なぜ300万円なのか。課税所得がこのラインを超えてくると、国民健康保険料の負担額が、マイクロ法人の維持コストを上回り始めるからです。

マイクロ法人の維持コスト(ミニマム構成)は以下の通りです。
1. 社会保険料(会社負担+本人負担):約27万円
2. 法人住民税均等割:約7万円
合計:約34万円

つまり、今のあなたの国保税と国民年金の合計が「34万円」を超えているなら、マイクロ法人化した方が安くなる計算です。国民年金は月額約1.7万円(年間約20万円)で固定ですから、国保税が年間14万円を超えるライン、それがだいたい「課税所得200〜300万円」のゾーンなのです。

逆に言えば、まだ売上が少なく、課税所得が200万円未満の方にとっては、マイクロ法人は「時期尚早」です。法人を作ると最低でも年間7万円の住民税(均等割)が赤字でも発生しますし、決算の手間も増えます。コスト負けするリスクが高いのです。まずは個人事業でしっかり利益を出し、300万円の壁を超えることを目指してください。

しかし、もしあなたが既に課税所得400万、500万、あるいはそれ以上のステージにいるなら、今すぐ動かないと毎日お金をドブに捨てているのと同じ状態です。次のシミュレーションを見てください。

【図解】年収600万・800万・1000万の削減額シミュレーション

ここでは、東京都の40歳独身フリーランス(IT業)をモデルケースとして、個人事業一本の場合と、マイクロ法人(役員報酬月4.5万円)を併用した場合の手取り差額を試算します。(※各種控除や税率は概算であり、自治体により異なります。40歳以上のため介護保険料を含みます。)

Case 1:課税所得 500万円(売上800万程度)のエンジニア

項目個人事業一本二刀流(マイクロ法人)
国保+国民年金約80万円0円
社保+法人維持費0円約34万円
年間コスト合計80万円34万円

【結果】年間 約46万円の削減(手取り増)

Case 2:課税所得 800万円(売上1200万程度)のコンサルタント

項目個人事業一本二刀流(マイクロ法人)
国保+国民年金約105万円(上限)0円
社保+法人維持費0円約34万円
年間コスト合計105万円34万円

【結果】年間 約71万円の削減(手取り増)

いかがでしょうか。所得が高いほど、削減効果は劇的になります。Case 2の方なら、法人設立費用(合同会社なら約6〜10万円)なんて、最初の2ヶ月でお釣りが来ます。しかも、繰り返しますが、将来もらえる年金はマイクロ法人(厚生年金)の方が増えるのです。

この数字を見てもまだ、「手続きが面倒だから…」と躊躇しますか? 年間70万円あれば、何ができるか考えてみてください。良いPCに買い替える、広告費に回して売上を伸ばす、あるいは長期休暇を取る。マイクロ法人は、あなたの人生の選択肢を増やすための「錬金術」なのです。

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コストの内訳
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💡 3秒でわかるまとめ

  • 課税所得300万円以下なら、今はまだ作るな。
  • 課税所得500万円なら、年間40万円以上の得。
  • 所得が増えてもマイクロ法人のコストは一定。高所得者ほど有利。

デメリットと導入すべきでない人(コストと手間の天秤)

ここまでメリット(光)ばかりを強調してきましたが、物事には必ず裏面(影)があります。「みんなやってるから」「インフルエンサーが勧めていたから」という安易な動機で法人を作ると、必ず痛い目を見ます。

経営者にとって最も重要な資質は、アクセルを踏むことではなく、「予期せぬリスク」を事前に把握し、ブレーキの位置を確認することです。以下のコストと手間を許容できないのであれば、悪いことは言いません。個人事業主のまま、大人しく高い税金を払っておくのが正解です。厳しいようですが、これが現実です。

[画像指示: 天秤のイラスト。片方に「社会保険料削減メリット」、もう片方に「均等割7万円」「税務申告の手間」「社会保険手続き」が乗っている。バランスが釣り合っているか確認している様子 (推奨ファイル名: micro-corp-disadvantages.jpg, alt: マイクロ法人のデメリットとコスト)]

【コスト】税理士なしでも年間「7万円」の維持費は必ずかかる

マイクロ法人の最大の固定費、それは「法人住民税の均等割」です。

個人事業主の場合、赤字なら所得税も住民税もほとんどかかりません。しかし、法人は違います。たとえ売上がゼロでも、赤字が1億円あろうとも、「そこに法人が存在するだけ」で年間約7万円(都道府県や市町村により微増減あり)の納税義務が発生します。これは法人の「場所代」のようなものです。

この7万円の内訳は、主に「道府県民税(約2万円)」と「市町村民税(約5万円)」です。資本金が1,000万円以下、従業員50人以下の場合の最低税率がこの金額になります。これは絶対に逃れられません。

また、もう一つの見えないコストが「決算」です。もしあなたが「決算なんて自分じゃ無理だ、税理士に丸投げしよう」と考えた瞬間、このマイクロ法人スキームは破綻します。

一般的な税理士の相場を見てみましょう。
・月額顧問料:1万〜3万円
・決算料:10万〜15万円
年間で安く見積もっても30万〜50万円のコストがかかります。これでは、せっかく浮いた社会保険料(年間40万〜70万円)がほとんど相殺されてしまいます。「税理士を食わせるために会社を作った」などという笑えない事態になりかねません。

つまり、マイクロ法人を成功させる絶対条件は、以下の2択です。
1. 税理士を雇わず、クラウド会計ソフトを使って自力で決算を行う。
2. 年1回の決算だけ格安(5〜10万円程度)で受けてくれる税理士を見つける。

幸い、マイクロ法人の取引数は極めて少ない(毎月の役員報酬の支払いと、年数回の経費支払いのみ)ため、freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを使えば、簿記の知識がなくても「自力決算」は十分に可能です。しかし、「数字アレルギーで領収書を見るのも嫌だ」という方は、マイクロ法人には向きません。

【手間】社会保険の加入手続きと毎年の事務負担を直視せよ

もう一つの壁は、行政手続きの煩雑さです。

個人事業主なら、確定申告さえしていれば国保や年金の手続きは自動的に送られてくる納付書で終わりました。しかし、法人は全てが「申請主義」です。自分から動かない限り、誰も助けてくれません。具体的には以下のような「事務タスク」が毎年降りかかります。

  • 📌 毎月: 社会保険料の納付(口座振替にするまでは納付書払い)
  • 📌 毎年1月: 法定調書の提出(税務署)、給与支払報告書の提出(市町村)、償却資産申告書の提出(都税事務所等)
  • 📌 毎年7月: 社会保険の算定基礎届(年金事務所)
  • 📌 決算後2ヶ月以内: 法人税・地方税の申告と納税(税務署・都道府県・市町村)
  • 📌 随時: 役員の住所変更、本店移転などの登記変更(法務局)

これら全てを、社長であるあなた一人で行わなければなりません。特に最初の設立直後は、税務署(法人設立届出書)、都道府県税事務所(事業開始等申告書)、市町村役場、年金事務所(新規適用届)と、スタンプラリーのように役所を回ることになります。

ここで多くの人が「うわ、面倒くさい…」と感じます。しかし、少し冷静になって計算してみましょう。これらの手続きにかかる時間は、慣れれば年間でトータル2〜3日(15〜20時間)程度です。

この20時間の労働で、年間50万円の手取りが増えるとしたら?

時給換算で「25,000円」の仕事です。あなたは本業で、確実に時給25,000円以上の利益を出せますか? もし出せるなら、手続きは外注すればいい。出せないなら、泥臭く自分でやるべきです。

この事務作業を「ただの雑用」と捉えるか、「利益を生むための経営者の仕事」と捉えるか。そのマインドセットの違いが、生存率を分けます。

💡 3秒でわかるまとめ

  • 赤字でも年間約7万円の税金(均等割)は逃れられない。
  • 税理士に丸投げするとコスト負けする。自力決算の覚悟が必要。
  • 役所手続きは面倒だが、時給換算すれば超高単価な仕事だ。

マイクロ法人におすすめの会社形態(合同会社 vs 株式会社)

法人を作る決意が固まったら、次に決めるのは「法人の種類」です。日本には主に「株式会社」と「合同会社(LLC)」がありますが、マイクロ法人に関しては議論の余地がありません。

もしあなたが「社長と言えば株式会社だろ」「名刺に代表取締役と書きたい」という見栄を持っているなら、今すぐ捨ててください。その見栄には、数万円〜十数万円の無駄なコストがかかっています。生存戦略において、見栄は最大の敵です。

[画像指示: 合同会社と株式会社の比較表イメージ。合同会社の方に「コスト安」「手続き簡単」、株式会社の方に「信用力」「コスト高」と書かれている。マイクロ法人は合同会社を選んでいる (推奨ファイル名: llc-vs-kk-comparison.jpg, alt: 合同会社と株式会社の違い)]

【断言】見栄を張らないなら「合同会社」一択である理由

結論、マイクロ法人は「合同会社(LLC)」で設立すべきです。

理由は単純明快、機能が同じでコストが圧倒的に安いからです。マイクロ法人の目的は何でしたか? 「社会保険料の削減」ですよね。上場を目指すわけでも、ベンチャーキャピタルから資金調達をするわけでもありません。誰かに名刺を渡して「合同会社? 怪しいな」と思われる機会すら、ほとんどないはずです(そもそもマイクロ法人用のアドレスや名刺を作らないケースも多いです)。

合同会社は、Amazon、Apple、Googleの日本法人も採用している合理的な形態です。「代表取締役」ではなく「代表社員」という肩書きにはなりますが、法人としての権利能力、経費の範囲、銀行口座の開設、社会保険の加入条件など、株式会社と何一つ変わりません。

自分と家族のためだけのプライベートカンパニーに、株式会社という「ブランド料」を払う必要は1ミリもないのです。そのお金があるなら、PCを買い替えるか、家族と美味しいものを食べるか、iDeCoに回した方がよほど建設的です。

設立費用で「14万円」、ランニングコストで「決算公告費」が変わる

では、具体的にどれくらい安くなるのか。数字で見てみましょう。

1. 設立時のイニシャルコスト
株式会社の場合、登録免許税(最低15万円)と定款認証手数料(約3〜5万円)で、最低でも約20万円かかります。一方、合同会社は登録免許税が「6万円」のみ。定款認証手数料は不要(0円)です。この時点で約14万円以上の差がつきます。

2. 設立後のランニングコスト
さらに見落としがちなのが、運用コストです。株式会社には、毎年決算の内容を官報などに掲載する「決算公告義務」があり、これに毎年約7万5千円〜かかります(※多くの小規模企業がサボっていますが、会社法上の義務であり、過料のリスクがあります)。合同会社にはこの決算公告義務がありません。

3. 役員の任期コスト
株式会社は最長10年で役員の任期が切れ、そのたびに「重任登記」という手続きで登録免許税1万円(+司法書士に頼めば数万円)がかかります。忘れると過料(罰金)を取られます。合同会社には任期がありません。一度作れば、解散するまで登記費用はかかりません。

入口で14万円、運用中も数万円単位で合同会社が有利です。この事実を知ってなお、株式会社を選ぶ合理的理由はありますか?

それでも「取引先の信用が…」と迷っている方は、以下の記事で合同会社と株式会社のメリット・デメリットを徹底比較していますので、設立前に必ず確認してください。

比較記事
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💡 3秒でわかるまとめ

  • 目的は節税。見栄のための株式会社は金の無駄。
  • 初期費用で約14万円、合同会社の方が安い。
  • 役員任期の更新や決算公告も不要。管理コストも最強。

失敗しないマイクロ法人の作り方 5ステップ(定款作成~登記)

いよいよ実践編です。ここでは、行政書士として数多くの設立を代行してきた経験から、最短ルートでマイクロ法人(合同会社)を設立する手順を解説します。

特に重要なのは、最初の「定款作成」です。ここでボタンを掛け違えると、法務局で突き返されたり、銀行口座が作れなかったりする事態に陥ります。気を引き締めていきましょう。

[画像指示: 5つのステップを階段状に示した図。Step1:事業目的、Step2:電子定款、Step3:出資、Step4:登記、Step5:届出。各ステップにアイコンを添える (推奨ファイル名: 5-steps-incorporation.jpg, alt: マイクロ法人設立の5ステップ)]

Step1:事業目的の選定(※ここが最大の落とし穴)

マイクロ法人の定款(会社のルールブック)を作る際、最も悩むのが「事業目的」です。何を書けばいいのか。

正解は、「手間がかからず、売上が立ちそうなもの」かつ「個人事業(本業)と被らないもの」です。ここが非常に重要です。例えば、本業がWebデザインなら、法人の目的には「Webデザイン」を入れてはいけません。

なぜなら、本業と法人の事業内容が重複していると、税務調査が入った際に「これは個人の売上を、税率の低い法人に無理やり付け替えているだけではないか?(租税回避行為)」と疑われるリスクがあるからです。「実体」が問われるのです。

おすすめは、「資産管理会社」としての性質を持たせることです。具体的には以下の文言を定款に入れます。

これらは今はやっていなくても、定款に入れておいて問題ありません。

あまりに多すぎると銀行口座開設の審査で「何をやっている会社か不明」として落とされるので、5〜10個程度に絞りましょう。

  • 「具体的にどんな文言を書けばいいの?」
  • 「法務局に通る書き方は?」

と悩む方のために、そのまま使える事業目的の文例集や詳しい解説を用意しました。

コピペして使ってください。

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【コピペOK】マイクロ法人の定款「事業目的」書き方・文例集20選|行政書士が教える資産管理会社の鉄板ルール

例(A):定款の事業目的は「会社の憲法」です。適当に書くと、後で銀行口座が作れません。 例(B):個人事業と全く同じことを書こうとしていませんか? その瞬間、税務署のターゲットロックオンです。 行政書 ...

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Step2:電子定款の作成と認証(コスト4万円ダウンの要)

定款の中身が決まったら、紙ではなく「電子定款」で作成します。

紙の定款で作ると、印紙税として「4万円」の収入印紙を貼らなければなりません。しかし、PDFデータで作成し、電子署名を付与した「電子定款」なら、この4万円が全額免除(0円)になります。マイクロ法人で4万円の差は巨大です。

ただし、ここで注意点があります。自分で電子署名を行うには、マイナンバーカード、ICカードリーダー、そして電子署名プラグインに対応したAdobe Acrobat(有料版)などの環境が必要です。これらをゼロから揃える手間とコストを考えると、現実的ではありません。

賢い方法は、以下の2つです。
1. **会社設立freeeやマネーフォワード会社設立などのツールを使う:** 手数料5,000円程度で電子定款作成を代行してくれます(行政書士と提携しているため)。
2. **行政書士に依頼する:** 定款作成のみを依頼するスポット契約。

ここでケチって紙で出して4万円払うのは、最も情弱な選択です。必ず電子定款を選択してください。

Step3~5:登記申請から税務署・年金事務所への届出まで

定款ができれば、あとは行政手続きの流れ作業です。

Step 3:出資金の払込み
個人の銀行口座(発起人名義)に、資本金を振り込みます。マイクロ法人なら資本金は10万〜100万円程度で十分です。「通帳の表紙」と「振込記帳ページ」のコピーをとって、払込証明書を作ります。

Step 4:登記申請
管轄の法務局へ書類を提出します。この日が記念すべき「会社設立日」になります。登録免許税6万円(合同会社の場合)の収入印紙を貼って提出します。不備がなければ、約1週間で登記が完了します。

Step 5:役所への届出(フィナーレ)
登記完了後、履歴事項全部証明書(謄本)と印鑑証明書を取得し、以下の3箇所へ「会社できたよ」と報告に行きます。

  • 1. 税務署:「法人設立届」「青色申告承認申請書」「給与支払事務所等の開設届」
  • 2. 都道府県税事務所・市町村役場:「事業開始等申告書」
  • 3. 年金事務所:「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」

この中で最も重要なのが、3番目の年金事務所です。これを出すことで、晴れてあなたの会社は社会保険適用事業所となり、あなた自身が被保険者となります。後日、会社宛に保険証が届いた瞬間、勝利確定です。その足で市役所へ行き、国民健康保険の脱退手続きを行ってください。

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行政書士 小野馨の「ここだけの話」

「年金事務所は怖いところ、色々突っ込まれる」というイメージがありますが、実は新規適用(加入)には非常に協力的です。なぜなら彼らの仕事は「加入者を増やすこと」だからです。堂々と「役員報酬月4.5万円で設定しました」と言って書類を出せば、淡々と受理されます。ビビる必要はありません。

💡 3秒でわかるまとめ

  • 事業目的は「本業と被らない」ものを設定せよ。
  • 紙の定款は4万円損する。絶対に「電子定款」を使うこと。
  • 最後の年金事務所への届出が、このプロジェクトのゴール。

あなたが得られる未来(まとめ)

手取りを最大化し、将来の「厚生年金」を手に入れる賢い生き方

マイクロ法人は、単なる節税テクニックではありません。国の制度に依存せず、自らの知恵で生活を守る「自律した生き方」そのものです。

想像してください。毎月給料天引きで憂鬱だった保険料が、驚くほど軽くなる未来を。浮いた数十万円で、家族と旅行に行くのもいいでしょう。新しい機材を買って、さらに本業の単価を上げるのもいいでしょう。そして何より、「自分は経営者として、制度をハックして生き残っている」という自信が、あなたのビジネスマンとしてのステージを一段引き上げてくれるはずです。

「難しそう」と立ち止まるか。「面白そうだ」と一歩踏み出すか。その差が、10年後の通帳残高に明確な差となって表れます。さあ、次はあなたの番です。

🚀 今日から始める「3つの行動」

  • 昨年の確定申告書を見て、自分の「課税所得」を確認する
  • 本業と切り離せる「マイクロ法人の事業内容」を3つ書き出す
  • 下記のマニュアルを手に入れて、具体的な設立準備を始める

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本記事内で使用している画像は、すべて生成AIによって作成されたイメージです。
記事の内容は執筆時点の法令・情報に基づいています。法改正や自治体の条例により最新の要件と異なる場合がありますので、実務の実行にあたっては、必ずご自身で管轄の行政庁または専門家へ確認を行ってください。