電子定款・定款認証

実質的支配者申告書とは?定款認証を一発で通す「書き方」と3つの判定基準

「自分がお金を出して社長になるんだから、当然、支配者は自分でしょ?」…その安易な認識が、共同創業者との関係を複雑にし、最悪の場合、定款認証の段階で公証人に「待った」をかけられます。
行政書士 小野馨
こんにちは!行政書士歴20年、5000社以上の起業・定款作成をサポートし、複雑な資本関係の整理にも携わってきた小野馨です。今回は「実質的支配者申告書」という、名前はいかついけれど避けては通れない重要書類について、プロの視点で解説します。

会社設立の定款認証において、必ず提出を求められる「実質的支配者となるべき者の申告書」。

「私はマフィアのボスではありません」と宣言するような響きですが、これは国際的なマネーロンダリング対策の一環として義務付けられた、非常に重要な手続きです。

多くの起業家は、「とりあえず自分の名前を書いておけばいい」と考えがちですが、株式の持ち比率や、法人株主がいる場合など、判定基準は意外と複雑です。

ここで間違った申告をすると、公証人から修正を求められるだけでなく、将来的な銀行口座開設や融資審査にも悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事では、あなたが迷わずに正しい申告書を作成できるよう、判定フローと書き方のポイントを徹底ガイドします。

▼ この記事のポイント ▼

  • ✅ 実質的支配者とは「議決権の50%超」を持つ人物が基本
  • ✅ 50:50の共同出資では「両名」が支配者になる
  • ✅ 法人が出資する場合、その親会社の「個人」まで遡る必要がある
  • ✅ 虚偽の申告は定款認証が通らないだけでなく、信用問題になる

【定義】実質的支配者申告書とは何か?「マネロン対策」の踏み絵

「実質的支配者」という言葉を聞くと、まるで会社を裏で操る黒幕のようなイメージを持つかもしれません。

しかし、法律の世界ではもっとドライで、機械的な定義が存在します。

なぜ、わざわざ定款認証のタイミングで、このような申告をしなければならないのか。

まずは、この書類が求められる背景と、誰がその「支配者」に該当するのかというルールを理解しましょう。

これを知らないと、窓口で公証人から質問されたときに、しどろもどろになってしまいます。

なぜ提出が必要なのか?(マネロン対策の背景)

提出が必要な理由とは、「株式会社がテロ資金供与やマネーロンダリング(資金洗浄)の隠れ蓑として悪用されることを防ぐため、公証人が設立背後にいる『真の支配者(自然人)』を確認する義務があるから」です。

実は、この制度が始まったのは2018年と比較的新しい出来事です。

背景には、国際的な金融活動作業部会(FATF)からの「日本は法人設立時の透明性が低い」という厳しい指摘がありました。

かつては、誰が出資しているのか不明瞭なペーパーカンパニーが簡単に作れましたが、現在はそれが許されません。

公証人は、定款認証というゲートキーパー(門番)の役割を果たしており、あなたが提出する申告書と身分証明書を照らし合わせ、

  • 「この会社は怪しい人物が支配していないか?」
  • 「暴力団関係者が関与していないか?」

を厳格にチェックしています。

つまり、この申告書は、あなたの会社がホワイトであることを証明するための「潔白証明書」なのです。

「実質的支配者」の3つの判定基準

実質的支配者の判定基準とは、「①議決権の50%超を持つ者、②25%超を持つ者、③それに該当者がいなければ代表取締役」という優先順位に従って特定されるルールのことです。

多くの人が「社長=支配者」だと思っていますが、それは間違いです。

法務省令では、以下の順番で判定を行います。

  1. 【第1順位】 会社の議決権(株式)の**50%を超える**数を保有する個人。
  2. 【第2順位】 50%超を持つ者がいない場合、議決権の**25%を超える**数を保有する個人(全員)。
  3. 【第3順位】 上記のいずれもいない場合、出資・融資・取引等を通じて事業活動に支配的な影響力を有する者(いなければ代表取締役)。
[画像指示: 3つの判定基準(50%超、25%超、代表者)を階段状またはフローチャートで示した図解 (推奨ファイル名: beneficial-owner-criteria-flowchart.jpg, alt: 実質的支配者 判定基準 フローチャート)]

例えば、あなたが100%出資するなら、あなたは「第1順位」の支配者です。

しかし、あなたが社長でも株を一株も持っておらず、スポンサーが100%出資しているなら、そのスポンサーが「実質的支配者」となります。

「誰が金を出しているか(オーナーか)」が最も重視されるのです。

💡 3秒でわかるまとめ:

  • 実質的支配者申告は、国際的なマネロン対策の一環で必須。
  • 社長かどうかは関係ない。まずは「株の持ち分」で決まる。
  • 50%超→25%超→代表者という優先順位を暗記せよ。

【実践】迷わない!ケース別「誰が支配者か」の特定フロー

定義は分かりましたが、実際の現場では「これってどうなるの?」と悩むケースが多々あります。

特に、複数人で起業する場合や、親族にお金を出してもらう場合など、状況は千差万別です。

ここでは、よくある3つのパターンに当てはめて、誰の名前を申告書に書くべきかを明確にします。

ケースA:自分一人で100%出資する場合

自分一人で100%出資する場合とは、「発起人(出資者)があなた一人であり、発行する株式のすべてをあなたが引き受ける、最もシンプルかつ一般的なパターン」のことです。

このケースでは、迷う必要はありません。

あなたが議決権の100%(50%超)を持っていますので、あなた自身が「実質的支配者」となります。

申告書にはあなたの住所・氏名・生年月日などを記載し、「本人」として申告します。

日本の小規模な会社設立の9割以上がこのパターンです。

ただし、もしあなたが「名義貸し」を頼まれていて、本当の出資者が別にいる場合は注意が必要です。

虚偽の申告をすると、公正証書原本不実記載等の罪に問われるリスクがあります。

あくまで「真の出資者は誰か」という問いに正直に答えてください。

ケースB:共同創業者と50%ずつ持つ場合

50%ずつ持つ場合とは、「あなたとパートナーが半分ずつ出資し合うケースで、どちらも『50%超』の要件を満たさないため、第2順位の『25%超』の基準が適用されるパターン」のことです。

ここが試験に出るポイントです。

第1順位は「50%を**超える**」必要があります。

50%ちょうどでは「超える」に該当しません。

したがって、あなたもパートナーも第1順位には該当せず、第2順位の「25%を超える」にスライドします。

50%は25%を超えていますから、結果として**「あなたとパートナーの2名」が実質的支配者**となります。

申告書には2名の情報を記載しなければなりません。

誤解を恐れずに言えば、50:50の出資比率は「決められない会社」を作る典型的な失敗パターンですが、実質的支配者の判定においても手続きが煩雑になる要因の一つです。

ケースC:親族や法人が株主になる場合

親族や法人が株主になる場合とは、「出資者が自然人(個人)ではなく法人であったり、妻や親が出資していたりする場合、最終的に会社をコントロールしている『人間』に行き着くまで追跡するルールの適用」のことです。

もし、あなたの会社の発起人が「株式会社A」だとしましょう。

申告書に「株式会社A」と書けば終わりではありません。

実質的支配者は必ず**「自然人(生身の人間)」**でなければならないからです。

その場合、親会社である株式会社Aの株主名簿を見て、A社を支配している個人(例えばA社の社長など)を探し出し、その人をあなたの会社の実質的支配者として申告する必要があります。

また、妻や親が出資する場合も、単にお金を出しただけなのか、それとも経営に関与するのかによって判断が分かれることがありますが、原則は出資比率通りに判定します。

「お金は親が出すけど、口出しはしない」という場合でも、親が50%超の株を持てば、書類上の支配者は「親」になります。

これが資本政策の怖いところです。

👨‍⚖️

行政書士 小野馨の「ここだけの話」

「IPO(上場)を目指すので、ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けます」という相談も増えています。
上場企業や、上場企業の子会社が出資する場合、実質的支配者の特定には特例があり、「その法人の代表者」をみなし支配者として扱って良いケースがあります。
ただし、VCのファンドスキームなどは非常に複雑なので、ここを素人が自己判断するのは危険です。
必ず公証役場に事前にドラフト(下書き)を送って確認してもらいましょう。

💡 3秒でわかるまとめ:

  • 100%出資なら迷わず自分を書けばOK。
  • 50:50の出資なら、2人とも支配者になる。
  • 法人株主の場合は、その奥にいる「人間」まで遡る必要がある。

【書式】「実質的支配者となるべき者の申告書」の書き方マニュアル

判定ができたら、いよいよ書類作成です。

この書類は、日本公証人連合会のホームページ等からダウンロードできますが、書き方を間違えると、公証役場での認証当日に「訂正印」を求められたり、最悪の場合は作り直しになったりします。

特に電子定款の場合、事前にPDF化して送ってしまうため、後からの修正は非常に手間がかかります。

一発でクリアするための、具体的な記入ポイントを解説します。

引用 日本公証人連合会 実質的支配者の申告書ー雛形

記載項目の完全解説(住所は一字一句正確に)

記載項目の完全解説とは、「申告書に記載する氏名・住所・生年月日を、手元の『印鑑登録証明書』と全く同じ表記で書くという鉄則」のことです。

「住所なんて、だいたいでいいでしょう?」

いいえ、ダメです。

例えば、印鑑証明書に「1丁目2番3号」とあるのに、申告書に「1-2-3」と書いたら、厳格な公証人は修正を求めます。

「実質的支配者」の特定は、公的な本人確認書類との照合が前提だからです。

具体的には、以下の項目を埋めていきます。

1. **氏名・フリガナ**: 戸籍通りの文字で。
2. **住所**: 印鑑証明書通りに。
3. **生年月日**: 和暦(昭和・平成など)で記載するのが一般的。
4. **類型**: 前述の「第1順位(50%超)」か「第2順位(25%超)」かを選択。
5. **保有割合**: 具体的な%を記載(例:100%)。

これらの情報は、定款認証が終わった後、公証役場で保管され、捜査機関等から照会があった場合に開示される可能性があります。

「公文書を作る」という意識を持って、正確に記載してください。

暴力団員等への該当性チェック

暴力団員等への該当性チェックとは、「実質的支配者が暴力団員や国際テロリストに該当しないことを表明・保証し、もし虚偽であれば定款認証が取り消されても文句は言えないという宣誓」のことです。

申告書の下部には、必ずチェックボックスがあります。

「私は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員(以下「暴力団員」という。)ではありません。」

ここにチェックを入れないと、定款認証は受けられません。

形式的なチェックに見えますが、公証人は警察庁のデータベース等を使って裏取り調査を行う権限を持っています。

もし、過去の経歴を隠して虚偽の申告をしたことが発覚すれば、会社設立自体が無効になるだけでなく、私文書偽造等の罪に問われるリスクもあります。

起業とは、社会的な信用の上に成り立つものです。

このチェックボックス一つにも、重い責任があることを自覚してください。

実質的支配者リスト制度との違い

実質的支配者リスト制度との違いとは、「定款認証時に公証役場へ出すのが『申告書』であり、会社設立後に法務局で保管してもらうのが『リスト』であるという、全く別の手続きの区別」のことです。

非常に紛らわしいのですが、似て非なる制度が存在します。

今回解説しているのは、設立前(定款認証時)に公証人に出す「申告書」です。

一方、設立後に法務局に対して「実質的支配者リストの保管」を申し出る制度(令和4年開始)があります。

後者は任意の手続きですが、これを行っておくと、銀行融資や不動産取引の際に「このリストの写し」を提出するだけで本人確認が完了するというメリットがあります。

「申告書を出したから、リストも自動的に登録される」わけではありません。

将来的に融資を受ける予定があるなら、設立登記が完了した後に、改めて法務局で「リスト保管」の手続きを行うことを強くお勧めします。

👨‍⚖️

行政書士 小野馨の「ここだけの話」

「申告書」の作成そのものは難しくありませんが、最近は公証人との「事前確認(テレビ電話等)」で、口頭で内容を確認されるケースが増えています。
その際、「あ、この住所、前の住所でした」なんて言ってしまうと、その場で認証不可になります。
印鑑証明書は、必ず「最新のもの(発行3ヶ月以内)」を手元に置いて、一文字ずつ指差し確認しながら入力してくださいね。

💡 3秒でわかるまとめ:

  • 住所はハイフンで省略せず、印鑑証明書の通り「〇丁目〇番〇号」と書く。
  • 反社チェックは形式ではない。虚偽申告は会社を潰す。
  • 「申告書」と「リスト制度」は別物。混同しないよう注意。

【生存戦略】株主名簿は会社の「憲法」。安易に決めるな

最後に、書類の書き方を超えて、経営の根幹に関わる「株主(支配者)」の選び方について、私の経験に基づいたアドバイスを送ります。

実質的支配者を誰にするか。

それは、会社の所有権を誰が握るかという、最も重要な意思決定です。

「とりあえず妻も株主に」が招く将来の経営権争い

経営権争いのリスクとは、「安易な気持ちで配偶者や友人に株式を持たせた結果、離婚や仲違いの際に『株式の買取価格』で揉め、会社の資産が流出したり、重要事項が決められなくなったりする事態」のことです。

創業時、多くの人は「愛」や「友情」で結ばれています。

「妻にも半分持ってもらおう」「親友と二人三脚だから50:50で」。

しかし、ビジネスの世界において、感情は移ろいやすいものです。

私が相談を受けたある社長は、離婚協議において、元妻が持つ40%の株式を買い取るために、会社の現金のほとんどを吐き出す羽目になりました。

また、50:50で起業した親友と仲違いし、相手がハンコを押さないために、何一つ決められない「植物状態の会社」になったケースもあります。

実質的支配者を申告するということは、その人に「会社を支配する権利」を法的に認めるということです。

その重みを理解し、可能な限り「経営者(あなた)が過半数(できれば3分の2以上)」を握る設計にしてください。

あなたが得られる未来

あなたが得られる未来とは、「誰が会社をコントロールするのかという『権力の所在』を明確にし、外部からの信頼と、内部の迅速な意思決定を両立させた、強い組織の基盤」のことです。

たかが書類一枚ですが、そこにはあなたの「覚悟」が表れます。

正しく実質的支配者を申告し、クリーンな会社としてスタートを切る。

それは、銀行や取引先に対して「この会社は透明性が高く、信用できる」という最初のメッセージになります。

そして、しっかりとした資本政策(株主構成)のもとで船出すれば、将来どんな嵐が来ても、船長であるあなたがリーダーシップを発揮して乗り越えていけるはずです。

面倒な手続きをクリアした先にある、揺るぎないオーナーシップを手に入れてください。

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  • 最新の印鑑証明書を取得し、正確な住所表記をメモする
  • 共同出資者がいる場合、暴力団排除条項に同意できるか確認する

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