会社設立・法人化

【2026年最新】役員報酬ゼロでも社会保険は必須?定款と加入義務の真実

「会社を作ったら、売上がなくても月3万円の保険料を取られる」
そんな都市伝説を信じて、起業をためらっていませんか?
実は、「ある一行」を議事録に残すだけで、その支払いは合法的に「0円」になります。

こんにちは!
開業20年で電子定款と会社設立の実績5000件、行政書士の小野馨です。

今回は【役員報酬ゼロと社会保険の意外な関係】というテーマで、熱くお話しします。

会社を設立すると、社長一人だけの会社であっても、法的には「社会保険(健康保険・厚生年金)」への加入義務が発生します。

この保険料は、会社と個人で折半して支払う必要がありますが、最低でも月額約2〜3万円(年間30万円以上)の固定費がかかります。

「創業直後で売上が立つかわからないのに、そんな固定費は払えない…」

そう悩む起業家のために、法律の抜け穴…ではなく、正当な実務運用ルールが存在します。

それが、「役員報酬をゼロにする」という戦略です。

しかし、これには「じゃあ健康保険証はどうなるの?」「年金は未納になるの?」といった、非常にデリケートな問題がついて回ります。

この記事では、役員報酬をゼロにした場合の社会保険の取り扱いと、定款や議事録でそれを正しく決定するための手順を、行政書士の実務経験に基づいて解説します。

▼ この記事のポイント ▼

  • ✅ 報酬ゼロなら社会保険料は発生しない(加入不可)
  • ✅ 定款または株主総会で明確に「無報酬」と決める必要がある
  • ✅ 副業起業やマイクロ法人では最強の節約術になる
  • ✅ ただし「国保への切り替え」などの対策が必須

役員報酬をゼロにすれば社会保険料はかからないのか?

結論から申し上げます。

役員報酬を完全にゼロ(無報酬)にした場合、社会保険料は1円もかかりません。

より正確に言うと、「社会保険に加入したくてもできない」状態になります。

これは、社会保険の仕組みそのものに理由があります。

社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)は、会社から支払われる「給与(役員報酬)」の額に基づいて計算されます。

計算の元となる給与が「0円」であれば、そこに保険料率を掛けても答えは「0」にしかなりません。

年金事務所の実務運用でも、「報酬が支払われていない役員からは保険料を徴収できないため、被保険者資格を取得させない(加入させない)」という取り扱いになっています。

私が担当したITエンジニアのJさんは、会社を辞めて独立する際、この点について非常に悩んでいました。

「小野さん、最初の半年は開発に専念するので売上はゼロです。でも会社は作りたい。社会保険料で貯金が尽きるのが怖いです」

私は彼にアドバイスしました。

「それなら、最初の半年間は役員報酬をゼロに設定しましょう。そうすれば、会社としての保険料負担はありません」

Jさんは安堵し、無報酬で設立。

半年後に無事プロダクトが完成し、売上が立ったタイミングで役員報酬月額を設定し、そこから初めて社会保険に加入しました。

このように、創業期の資金繰りを守るための「緊急避難措置」として、報酬ゼロ設定は非常に有効な手段なのです。

ただし、これには「加入したくないからゼロにする」という脱法的な意図ではなく、「事業の実態として報酬を払える状況にない」という正当な理由が必要です。

以下に、報酬がある場合とない場合のコスト比較表を作成しました。

項目役員報酬 月20万円の場合役員報酬 ゼロ(0円)の場合
社会保険料(会社負担)約 30,000円0円
社会保険料(本人負担)約 30,000円0円
年間コスト合計約 720,000円0円

法的には加入義務があるが実務上は加入できない

ここで法律の原則を確認しておきましょう。

健康保険法および厚生年金保険法において、株式会社や合同会社などの法人は、従業員がいなくても、社長一人であっても**「強制適用事業所」**とされています。

つまり、原則としては「会社を作ったら絶対に加入しなければならない(**加入義務**がある)」のです。

「えっ? さっきと言ってることが違うじゃないか!」と思われるかもしれません。

ここが法律の難しいところであり、実務の面白いところです。

法律上、加入対象となる「被保険者」の条件として、「法人の事業所に使用される者」であることが求められます。

そして、行政解釈(昭和24年の通達など)により、法人の役員であっても、報酬を受けていなければ「使用される者」としての実態がない(労働の対価を得ていない)とみなされ、被保険者の資格を得ないことになっています。

つまり、**「会社(ハコ)としての加入義務はあるが、加入させるべき人間(中身)がいない」**という状態になるのです。

結果として、年金事務所に「新規適用届」を出そうとしても、「社長さんは無報酬ですか? でしたら加入できませんね」と言われて書類を受け取ってもらえない、というのが実務のリアルです。

ただし、これは「今は払えないから」という一時的な未払い(資金不足による遅配)とは違います。

最初から「報酬はゼロである」と法的に決定されている必要があります。

ここを曖昧にしていると、後から年金事務所の調査が入った際に、「本当は払えたんじゃないの?」と疑われ、過去に遡って保険料を請求されるリスクがあります。

だからこそ、次項で説明する「手続き」が極めて重要なのです。

参考:適用事業所と被保険者(日本年金機構)

創業期に役員報酬を完全なゼロにするメリット

創業期に役員報酬を**ゼロ**にする最大のメリットは、言うまでもなく「キャッシュアウトの抑制」です。

先ほどの表にもあった通り、月額20万円の報酬を設定するだけで、会社と個人合わせて年間70万円以上のキャッシュが消えます。

創業時の70万円は、大企業の700万円に匹敵する価値があります。

このお金を、広告費や設備投資、あるいは商品の仕入れに回すことができれば、事業の立ち上がりスピードは格段に上がります。

また、もう一つのメリットとして「事務負担の軽減」があります。

社会保険に加入すると、毎月の給与計算、保険料の納付、算定基礎届の提出、賞与支払届など、膨大な事務作業が発生します。

社長一人の会社で、本業も忙しい中、これらの事務作業に時間を取られるのは苦痛以外の何物でもありません。

報酬ゼロであれば、そもそも給与計算が存在せず、社会保険の手続きも発生しません。

さらに、源泉所得税の納付も発生しません(0円に対する税金は0円なので)。

つまり、**「お金もかからず、手間もかからない」**という、究極のスリム経営が可能になるのです。

特に、サラリーマンを続けながら副業で法人を作った場合、本業の方で既に社会保険に入っているため、副業法人でわざわざ二重に加入する必要性は低いです(※二以上事業所勤務届という複雑な手続きが必要になります)。

このようなケースでは、副業法人の報酬をゼロにしておくのが最も合理的で賢い選択と言えるでしょう。

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定款の規定と株主総会での無報酬の決め方

では、具体的にどうやって「報酬ゼロ」を決定すればよいのでしょうか。

「今月は売上がないからゼロでいいや」と、社長の頭の中だけで決めても法的な効力はありません。

会社法において、役員報酬は**定款**で定めるか、株主総会の決議によって定めるとされています。

一般的な定款(雛形)では、「役員の報酬は、株主総会の決議によって定める」と記載されていることがほとんどです。

したがって、以下の手順を踏む必要があります。

1. **会社設立(定款作成):** 定款には「報酬は株主総会で決める」としておく。

2. **設立時株主総会(または合同会社なら社員総会)の開催:** 設立直後に開催し、「当分の間、役員報酬は無報酬とする」旨を決議する。

3. **議事録の作成:** 決議した内容を書面(株主総会議事録)に残し、会社の実印を押印して保管する。

この「議事録」こそが、年金事務所や税務署に対する「防波堤」となります。

もし年金事務所から「なぜ加入しないんですか?」と問われた際に、「当社の株主総会において無報酬と決議しており、議事録もここにあります」と提示できれば、それ以上突っ込まれることはありません。

議事録の文面はシンプルで構いません。

> 第〇号議案 役員報酬の件
> 議長は、当会社の現在の収益状況を説明し、当分の間、代表取締役〇〇〇〇の役員報酬を無報酬としたい旨を述べ、その承認を求めたところ、満場異議なく承認可決された。

たったこれだけの紙切れ一枚が、あなたを守ります。

なお、合同会社の場合は「同意書」や「決定書」という形になりますが、効力は同じです。

「面倒だから作らなくていいや」と思わず、必ず作成して会社に保管しておいてください。

これが、プロの行政書士が教える「鉄壁の守り」です。

参考:役員に対する給与(国税庁タックスアンサー No.5211)

【※準備中:報酬ゼロを決議するための株主総会議事録の雛形ダウンロードは執筆後にリンク設置予定】

役員報酬なしで社会保険未加入となるリスクと解決策

「よし、役員報酬をゼロにして社会保険料を浮かせよう!」

ここまで読んだあなたは、そう意気込んでいるかもしれません。

しかし、ちょっと待ってください。

物事には必ず「裏」があります。

社会保険料がかからないということは、逆に言えば「社会保険の保障を受けられない」ということを意味します。

日本は国民皆保険制度の国ですから、社会保険(社保)に入らないのであれば、必ず別の保険に入らなければなりません。

無保険状態でいることは法律違反であり、何より万が一の病気やケガの際に、医療費を全額(10割)自己負担することになります。

これは、起業家にとって最大のリスクです。

また、将来の年金受給額にも大きな影響を与えます。

私が相談を受けたKさんは、目先の3万円をケチって無報酬・無保険を選択しましたが、その期間に大きな病気を患い、傷病手当金(社保独自の休業補償)を受け取れず、逆に生活が困窮してしまいました。

「タダより高いものはない」とならないよう、ここでは報酬ゼロを選択した際に直面するリスクと、その具体的な解決策について包み隠さずお話しします。

社長の健康保険証はどうなる?(国保・扶養)

役員報酬ゼロで会社の社会保険に入れない場合、社長自身の健康保険証はどうなるのでしょうか。

選択肢は大きく分けて2つあります。

1. 国民健康保険(国保)に加入する
会社を辞めて独立した場合、多くの人がこれに該当します。

お住まいの市区町村の役所で手続きを行い、**国保**に加入します。

国保の保険料は「前年の所得」に基づいて計算されるため、会社を辞めた直後は、サラリーマン時代の高い年収を基準に計算され、驚くほど高額な保険料(月5万〜8万円など)の請求が来ることがあります。

「報酬ゼロなのに、なんでこんなに高いんだ!」と驚くかもしれませんが、これは「前年の自分」に対する請求なので避けることはできません。

ただし、役所で「所得激減の減免申請」を行えば、安くなるケースもありますので、必ず窓口で相談してください。

2. 家族の扶養に入る
もし配偶者が会社員で社会保険に入っているなら、その被扶養者(扶養家族)になるという手があります。

役員報酬がゼロであれば、「年収130万円未満」という要件をクリアできるため、扶養に入れる可能性が高いです。

これが実現できれば、あなたの保険料負担は実質「0円」になります。

ただし、健康保険組合によっては「社長(代表取締役)は収入がゼロでも扶養に入れない」という独自ルールを設けているところもあるため、事前に配偶者の会社の担当者に確認することが必須です。

いずれにせよ、「会社の保険証」は使えなくなりますので、空白期間を作らないよう、退職後速やかに(原則14日以内に)手続きを行ってください。

参考:国民健康保険制度の概要(厚生労働省)

将来受け取る年金額への影響をシミュレーション

次に、**年金**の問題です。

社会保険(厚生年金)に入らないということは、その期間は「国民年金(基礎年金)」のみに加入することになります。

厚生年金は、将来受け取る年金額を増やす「2階建て部分」の役割を果たしています。

この2階建て部分がなくなるため、将来の年金受給額は確実に減少します。

例えば、年収500万円の人が厚生年金に40年間加入した場合と、国民年金だけの場合とでは、受給額に年間100万円近くの差が出ると言われています。

創業期の1〜2年だけであれば影響は軽微ですが、もし5年、10年と無報酬(または低報酬)を続けて厚生年金未加入の状態が続くと、老後の生活設計が狂う可能性があります。

そこで、賢い起業家は「浮いた社会保険料」を使って、自分で年金を作ります。

具体的には以下の2つの制度を活用します。

* iDeCo(個人型確定拠出年金): 掛金が全額所得控除になり、運用益も非課税。

* 小規模企業共済: 経営者の退職金制度。掛金が全額控除になり、廃業時に受け取れる。

これらは、国が用意した「強制加入ではない、自分年金」です。

社会保険料として消えてなくなるお金を、自分のための積立金に回す。

この「資産の付け替え」を行うことで、厚生年金に入らないデメリットをカバーしつつ、より効率的に資産形成を行うことが可能になります。

あえて月額数千円にする「マイクロ法人」スキーム

最後に、少し上級者向けのテクニックを紹介します。

「報酬ゼロ」ではなく、あえて「月額数千円〜数万円」の低い報酬を設定し、社会保険に加入するという方法です。

いわゆる「**マイクロ法人**」スキームと呼ばれるものです。

例えば、役員報酬を「月額45,000円」に設定したとします。

これでも社会保険の加入基準は満たすため、健康保険・厚生年金に加入できます。

この場合の保険料は、もっとも低い等級(1等級)となり、会社・個人合わせても月額約2万円程度で済みます。

この月額2万円を払うだけで、

1. 3割負担の健康保険証が手に入る(国保より安いケースが多い)。

2. 厚生年金の加入期間としてカウントされる(将来の受給資格確保)。

3. 家族を扶養に入れることができる(配偶者や子供の保険料がタダ)。

という絶大なメリットを享受できます。

特に、家族がいて国保の保険料が高くなりそうな人にとっては、報酬ゼロにするよりも、あえて少額の報酬を出して最安値で社保に入った方が、トータルの支出が少なくなる場合があるのです。

もちろん、生活費月4万5千円では暮らせませんから、これは「副業法人」を持っている人や、個人事業との「二刀流」を行っている人に特化した戦略になります。

「0か100か」で考えるのではなく、自分のライフスタイルに合わせて「最適な設定値」を見つける。

これが、役員報酬設定の奥深さであり、面白さでもあります。

参考:保険料額表(日本年金機構)

役員報酬と社会保険をコントロールする賢い経営者へ

役員報酬と社会保険の関係、いかがでしたでしょうか。

「会社を作ったら強制徴収される」と思っていた保険料も、知識があればコントロール可能なコストであることがお分かりいただけたと思います。

創業期に報酬をゼロにしてキャッシュを守るのも正解。

あえて少額報酬を出して、最安で保障を手に入れるのも正解。

間違いなのは、「何も知らずに言われるがまま払うこと」だけです。

定款の一文、議事録の一枚が、年間数十万円、数年で数百万円の差を生みます。

その浮いたお金は、あなたの会社の寿命を延ばし、成長させるための貴重な燃料になります。

どうか、制度の仕組みを正しく理解し、あなたの事業フェーズに最適な選択を行ってください。

行政書士として、あなたの賢いスタートアップを心から応援しています。

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よくある質問(FAQ)

Q. 役員報酬ゼロの期間は、いつまで続けられますか?

A. 法律上の期限はありません。株主総会で決議すれば、1年でも10年でも無報酬とすることは可能です。ただし、事業が黒字化しているのに無報酬を続けると、税務調査で「利益操作ではないか」と疑われるリスクがあるため、利益が出始めたら適正な報酬を設定することをお勧めします。

Q. 途中で役員報酬を増やすことはできますか?

A. 原則として、役員報酬の改定は「事業年度の開始から3ヶ月以内」に一度だけ認められています。期中の勝手な変更は、増額分が経費(損金)として認められないため注意が必要です。

Q. 社員(従業員)を雇ったらどうなりますか?

A. 社員を1人でも雇い、給与を支払う場合は、その社員のために社会保険(または雇用保険)の加入手続きが必要になります。社長自身の報酬がゼロであれば社長は未加入のままですが、会社としては適用事業所として稼働することになります。

この記事を書いた人

行政書士 小野 馨
会社設立・電子定款専門の行政書士。起業家の「面倒」を「武器」に変えるサポートを信条に、年間数百件の相談に対応。実務とマーケティングの両面から、失敗しない創業を支援しています。

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