会社設立・法人化

法人成り後も個人事業主を廃業しない!二刀流のメリットとデメリット(注意点)

法人成り後も個人事業主を廃業しない

行政書士 小野馨
こんにちは 法人成りが得意な行政書士の小野馨です。

最近、私の元に「会社を作りたいけれど個人事業主としての活動も残したい」という相談が急増しています。

これまで法人成りといえば、個人事業を廃業して会社に一本化するのが常識でした。

ポイント

ですが実は今、あえて法人成り後も個人事業主を廃業しないという選択が、知識のある経営者の間で密かなブームになっています。

いわゆるマイクロ法人と個人事業を併用する二刀流のスタイルですね。

この方法なら社会保険料を適正化したり、消費税の免税メリットを最大限に活用したりすることが可能です。

注意ポイント

ただ、この手法は確定申告の手間が増えたり、法人と個人で同じ事業を行っているとみなされるリスクがあったりと、運用にはコツがいります。

廃業届を出すタイミングやメリットを正しく理解して、賢く手取りを増やしていきましょう。

  • 法人と個人を使い分けることで社会保険料を劇的に下げる仕組み
  • インボイス制度下でも消費税の免税枠を確保する戦略
  • 税務署に否認されないための「事業目的」の書き分け方
  • 銀行口座開設や融資審査で不利にならないための対策

法人成り後も個人事業主を廃業しない戦略的メリット

「会社を作ったら、個人事業はたたむもの」。

そう思い込んでいませんか?実は、制度の隙間を縫うような裏技ではなく、法律に基づいた正当な戦略として、両方を維持するメリットが注目されています。

ここでは、なぜ多くの賢い経営者がこの「二刀流」を選ぶのか、その経済的な合理性を解説します。

社会保険料を削減するメリットと扶養

このスキーム最大のメリットであり、多くの経営者が二刀流を始めるきっかけとなるのが、重くのしかかる社会保険料の圧縮です。

個人事業主として利益が出ると、国民健康保険料は上限(年間約100万円前後)近くまで跳ね上がりますよね。

しかも、国民健康保険には「扶養」という概念がないため、家族が増えればその分、均等割などで負担も増え続けます。

これが家計を圧迫しているケースが非常に多いのです。

そこで、「マイクロ法人」の出番です。

法人を設立し、そこから受け取る役員報酬を月額4万5千円〜6万円程度に低く設定して社会保険(健康保険・厚生年金)に加入します。

すると、社会保険料は最低等級で済む上に、個人事業主としてどれだけ利益を上げていても、それに対して社会保険料がかかることはありません。

ここがポイント

法人の社会保険に加入すると、国民健康保険からは自動的に脱退(適用除外)となります。

つまり、個人の儲けは「社会保険料フリー」になるのです。

さらに、法人の社会保険(協会けんぽ等)には「扶養」の仕組みがあります。

配偶者や子供を扶養に入れても、保険料は1円も上がりません。

これだけで、年間数十万円〜100万円近く手取りが変わるケースも珍しくありませんよ。

また、厚生年金に加入することで、将来的には国民年金よりも手厚い保障が受けられる点も見逃せません。

(出典:日本年金機構『保険料額表(令和6年度版)』)

インボイス制度と消費税免税の活用

インボイス制度が始まってから、消費税の悩みは尽きませんよね。

「インボイス登録をしたら消費税を払わないといけない、でも登録しないと仕事が減るかも…」

そんなジレンマも、併用スタイルなら解決の糸口が見つかるかもしれません。

通常、基準期間の課税売上が1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生します。

しかし、法人と個人は法律上、明確な「別人格」です。

そのため、それぞれの売上が1,000万円以下であれば、どちらも免税事業者でいられる可能性があります。

(※法人は資本金1,000万円未満などの要件あり)。

戦略的な使い分けとしては、以下のような形が考えられます。

事業主体ターゲットインボイス登録狙い
法人BtoB(企業)登録する(課税)取引先からの信頼獲得・控除対応
個人事業主BtoC(一般客)登録しない(免税)免税メリットの維持・事務負担軽減

このように、インボイスが必要な大手企業との取引は法人で受け、インボイスが不要な一般消費者向けの取引や小規模事業者との取引は個人で受けることで、本来払うべき消費税の一部を合法的に手元に残せる可能性があります。

もちろん、これは「事業の実態」が伴っていることが大前提ですが、上手く住み分けができれば大きなキャッシュフローの改善につながります。

(出典:国税庁『インボイス制度の概要』)

経費の按分と所得分散による節税

日本の所得税は「超過累進税率」を採用しており、稼げば稼ぐほど税率が高くなり、最大で住民税と合わせて55%もの税金が持っていかれます。

「一生懸命働いたのに半分以上税金なんて…」とため息をついている方も多いのではないでしょうか。一方で、中小企業の法人税率は、年800万円以下の所得部分については約15%〜と低く抑えられています。

そこで、所得を個人と法人に分散させるのです。

一つの財布に大金を入れるのではなく、二つの財布に分けることで税率を下げるイメージですね。

さらに、法人から給料(役員報酬)をもらう形にすれば、個人事業主にはない「給与所得控除(最低55万円)」が適用されます。

これは、サラリーマンにおける「みなし経費」のようなものです。

個人の事業所得で使える「青色申告特別控除(最大65万円)」と合わせれば、控除の二重取りができるわけです。

これにより、課税される所得全体を圧縮し、トータルの納税額を減らすことが可能になります。

経費の扱いに注意

ただし、家賃や光熱費などの経費をどちらで落とすかは要注意です。適当にやると税務調査で否認されます。使用時間や面積など、合理的な基準で按分(あんぶん)し、説明できるようにしておきましょう。

兼業でマイクロ法人を設立する理由

「じゃあ、なぜ普通の会社じゃなくてマイクロ法人なの?」と聞かれることがありますが、答えはコストパフォーマンスです。

この戦略においては、会社を大きくして上場を目指したり、従業員を大量に雇ったりすることが目的ではありません。

あくまで「社会保険料の最適化」や「個人の資産管理」が主目的です。

そのため、設立費用が高い株式会社(約20万円〜)である必要性は低いです。

対して、「合同会社」であれば、設立費用は約6万円〜で済みます。

株式会社に必要な「定款認証手数料(約3万〜5万円)」もかかりませんし、役員の任期切れに伴う重任登記のコストも不要です。

マイクロ法人という箱を用意するだけなら、初期費用もランニングコストも安い合同会社が最適解と言えるでしょう。

浮いたコストを事業投資に回せるのも大きな魅力です。

個人事業主をやめたほうがいい年収の目安

では、どのくらいの規模になったらこのスキームを検討すべきでしょうか。

早すぎても法人の維持費(赤字でもかかる均等割7万円など)が無駄になりますし、遅すぎれば節税のチャンスを逃します。

ポイント

一つの目安は、個人事業の利益(課税所得)が500万円〜600万円を超えたあたりです。

このラインを超えると、所得税率が20%を超え始め、国民健康保険料の負担感も急激に増してきます。

「税金と保険料で働いても働いてもお金が残らない…」と感じ始めたら、まさにその時が検討のタイミングと言えるでしょう。

また、扶養家族の有無も判断材料になります。

扶養家族が多い場合、社会保険への切り替えメリットが大きくなるため、年収がもう少し低くてもメリットが出る場合があります。

ご自身の状況に合わせてシミュレーションしてみることをお勧めします。

赤字の損益通算ができないデメリット

良いことばかり解説してきましたが、もちろんデメリットもあります。

その最大の一つが「損益通算ができない」ことです。

損益通算の壁

例えば「法人が100万円の黒字」で「個人が100万円の赤字」だったとします。

もしこれが一つの事業体ならプラマイゼロで税金はかかりませんが、法人と個人は別人格なので、法人の100万円に対して法人税がかかってしまいます。

個人事業が大赤字でも、法人の黒字と相殺して税金を減らすことはできません。

どちらかの事業が不安定で、大きな赤字になる可能性がある場合は、逆に税負担が増えるリスクもあります。

事業が軌道に乗り、ある程度安定して黒字が見込める状態でスタートするのが安全です。

法人成りでも個人事業主を廃業しない手続きと注意点

「よし、二刀流でいこう!」と決めたあなた。

ちょっと待ってください。この手法は、ただ会社を作ればいいというものではありません。

実務上の落とし穴を知らずに進めると、銀行口座が作れなかったり、税務署から「租税回避だ」と指摘されたりするリスクがあります。

ここからは行政書士としての視点で、守りを固めるための重要ポイントをお話しします。

確定申告の二重化と税理士費用

当然ですが、会社と個人、2つの財布を持つことになるので、経理処理の手間は2倍になります。

  • 個人:毎年2月〜3月の所得税確定申告
  • 法人:決算月から2ヶ月以内の法人税申告

これらを別々に行う必要があります。

特に法人の決算申告は、個人の確定申告よりも遥かに複雑で、自力で行うのは非常に困難です。

そのため、基本的には税理士に依頼することになりますが、個人の顧問料に加えて法人の顧問料・決算料も発生します。

税理士費用として年間数十万円のコスト増は覚悟しなければなりません。

「節税できた金額」が「増えた税理士費用」を上回らなければ本末転倒です。

そのコストを払ってでも、メリットが出るかどうかの事前の試算が必須です。

銀行口座の審査と融資への影響

ここが意外と盲点なのですが、実態が見えにくいマイクロ法人は、銀行から「ペーパーカンパニーではないか?」「マネーロンダリングに使われるのではないか?」と警戒されやすく、法人口座の開設審査で落ちることが多々あります。

特に、「オフィスが自宅」「固定電話がない」「ホームページがない」といった状態だと、ネット銀行でも審査が厳しくなります。

個人事業主としての実績があっても、新設法人は「実績ゼロ」からのスタートです。

事業の実態を証明するための資料(契約書、請求書、事業計画書など)をしっかり準備する必要があります。

また、融資を受ける際も、売上が個人と法人に分散しているため、一社あたりの事業規模が小さく見えてしまい、大きな金額を借りにくくなる可能性があります。

将来的に大きな設備投資を考えている場合は注意が必要です。

個人事業主と法人が同じ事業を行うリスク

これが最も危険なポイントです。絶対に避けてください。

個人事業と法人で、全く同じ事業を行ってはいけません。

例えば、個人でも「デザイン制作」、法人でも「デザイン制作」を行っていると、税務署は「なんで分ける必要があるの?売上を調整して消費税や所得税を逃れているだけでは?」と判断します。

これを「実質所得者課税の原則」や「同族会社の行為計算否認」といって、最悪の場合、法人で作った売上を個人の売上として再計算され、追徴課税される恐れがあります。

(出典:国税庁『第132条関係 同族会社等の行為又は計算の否認』)

これを防ぐには、「個人はデザイン制作(手を動かす労働集約型)」、「法人はデザインコンサルティングや教材販売(資産やノウハウを売るストック型)」といったように、明確にビジネスモデルや役割を分ける必要があります。

顧客層を分ける、提供するサービス内容を変えるなど、第三者が見ても違いがわかるように設計しましょう。

定款の事業目的による実体の証明

そこで重要になるのが、会社の憲法である「定款(ていかん)」の事業目的です。ここに行政書士である私の出番があります。

多くの人が、ネット上のひな形をコピペして定款を作ってしまいますが、二刀流を目指すならそれは命取りです。

定款の事業目的には、個人事業とは明確に異なる事業内容を記載し、対外的にも「別のビジネスをやっている」と証明できるようにしておく必要があります。

プロのアドバイス

例えば、法人は「資産管理」「有価証券の保有・運用」「経営コンサルティング」といった側面を強調するなど、税理士とも相談しながら戦略的に定款を作り込むことが、将来のリスク回避につながります。

事業目的は、銀行口座開設の際にも厳しくチェックされます。

「何をやっている会社なのか」が一目でわかり、かつ個人事業との重複を避けられる書き方を工夫する必要があります。

許認可や契約名義の引き継ぎ問題

個人事業時代に取得した「建設業許可」や「古物商許可」「宅地建物取引業免許」などの許認可は、原則として法人には引き継げません(一身専属権)。

法人としてその事業をやるなら、イチから取り直しになります。

また、店舗の賃貸契約や取引先との業務委託契約も、個人名義のままでは法人の経費や売上にする根拠が弱くなります。

「法人成りしたから」といって自動的に切り替わるわけではないので、契約の巻き直しや名義変更の手続きが必要になります。

ここをおろそかにして、「実態は法人で活動しているのに契約書は個人のまま」という状態が続くと、税務調査で「それは個人の経費ですね」と否認されてしまう原因になります。

面倒でも、一つ一つの契約関係を整理していくことが大切です。

法人成り後も個人事業主を廃業しない賢い選択

「法人成り=個人の廃業」というのは、あくまで一般的なケースの話です。

ルールを正しく理解し、手間を惜しまなければ、個人と法人を併用することで、手元に残るお金を最大化できる可能性は十分にあります。

ただ、これは「初心者向けの簡単な節税術」ではありません。

「経営者としてのリテラシーが問われる中級者以上の戦略」です。

目先の税金が安くなることだけでなく、増える事務負担、税理士報酬、銀行との関係、そして将来のリスク管理も含めて総合的に判断できる人が選ぶべき道だと言えるでしょう。

行政書士 小野馨
しっかりと管理できれば、これほど効率的な資産形成の方法はありません。

ご自身のビジネススタイルに合致するかどうか、一度じっくり検討してみる価値はあるはずです。

法人成り後も個人事業主を廃業しないまとめ

今回は、法人成り後も個人事業主を廃業しない「二刀流」のメリットと注意点について解説しました。

このスキームは非常に強力ですが、成功の鍵は「定款作成」と「事業の明確な区分け」にあります。

入り口である定款が適当だと、後からすべてが崩れるリスクがあります。

「自分もこの方法でいけるかな?」と思ったら、まずは電子定款の作成から、しっかりとした土台作りを始めてみてください。

あなたの手取りを最大化する第一歩は、正しい定款作りから始まります。

法人成りと個人事業の二刀流を成功させるための「失敗しない電子定款の作成ロードマップ」については、以下の記事で完全網羅しています。ぜひ合わせてご一読ください。

▼ 行政書士が教える会社設立の「戦略」はこちら

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