定款変更・定款紛失

健康経営は定款から!経営戦略上のメリットと目的変更の記載例

健康経営 経営戦略と目的変更の記載例

行政書士 小野馨
こんにちは

ハートマス健康経営ラボ 代表の行政書士の小野馨です。

今回は、「健康経営を始める経営戦略上のメリットや定款の目的の記載例」についてお話します。

僕の健康系専門サイトのご紹介もあります。

従業員の活力を高めるために健康経営の導入を検討されている経営者様や、健康経営の費用対効果やメリットについてリサーチされている担当者様も多いのではないでしょうか。

ポイント

実は、会社の本気度を社内外に示すために、健康経営を会社の憲法である定款に追加する企業が増えているんです。

「えっ、定款まで変える必要があるの?」と思われるかもしれませんが、これが意外と重要なポイントなんですよ。

  • 健康経営を定款に明記することの対外的なブランディング効果
  • 定款の「目的」に追加する際の具体的な文言や記載例
  • 定款変更に必要な株主総会の決議や法務局での登記手続きの流れ
  • 定款変更にかかる登録免許税などの具体的なコストや注意点

健康経営を定款に記載する本当の意味とは?

「健康経営優良法人」の認定申請において、定款への記載は必須条件ではありません。

多くの企業が「健康宣言」を行い、社内規定を整備することで認定を取得しています。

では、なぜわざわざ手間とコスト、そして法的な手続きを経てまで定款に記載するのでしょうか。

ここでは、その戦略的な理由について、行政書士としての視点も交えながら深掘りして解説しますね。

会社の本気度をステークホルダーに示す最強のツール

まず、定款というものの法的な性質と、それが社外に与える心理的インパクトについて深く掘り下げてみましょう。

定款は、会社設立時に公証人の認証を受け、法務局に登記される「会社の憲法」です。

就業規則や社内規定があくまで「社内のルールブック」であるのに対し、定款は「社会に対する会社の在り方」を定義する公的な文書としての側面を持っています。

ここに健康経営に関する条項を盛り込むということは、単なる流行りの施策や一時的なブームとして取り組むのではなく、会社として永続的に従業員の健康を大切にするという固い決意表明になります。

昨今のビジネス環境において、この「決意」が見える化されているかどうかの差は非常に大きいです。

参考

例えば、銀行からの融資や大手企業との新規取引において、相手方の担当者は必ずと言っていいほど御社の「登記簿(履歴事項全部証明書)」を確認します。

その際、事業目的の欄に「従業員の健康保持増進」といった文言が刻まれていたらどう感じるでしょうか。

「この会社は、従業員を使い捨てにするようなブラックな体質ではないな」「コンプライアンス意識が高く、長期的にお付き合いできそうだ」というポジティブな印象を、会う前から植え付けることができるのです。

これは、名刺交換やウェブサイトのアピールだけでは決して得られない、公文書ならではの信頼性です。

また、最近ではESG投資(環境・社会・ガバナンスへの配慮)やSDGsの観点から、サプライチェーン全体での人権尊重や労働環境の健全性が厳しく問われるようになっています。

大手企業が取引先を選定する「サプライヤーチェックリスト」にも、労働安全衛生や健康管理に関する項目が増えていますよね。

定款に健康経営を掲げていることは、こうした外部からの厳しい審査基準をクリアするための「最強のエビデンス」となり得るのです。

つまり、定款変更は単なる事務手続きではなく、将来のビジネスチャンスを広げるための戦略的な先行投資と言えるでしょう。

ここがポイント

定款への記載は、企業のブランド価値を高める「投資」です。

登記簿という誰でも閲覧可能な公的記録に残すことで、取引先や金融機関に対する「信用力」という無形資産を構築する第一歩となります。

(出典:経済産業省『健康経営の推進について』

事業承継や経営陣交代時の「理念の継承」

中小企業の経営において、カリスマ性のあるオーナー社長の強烈なリーダーシップと想いで始まった健康経営が、社長交代とともに形骸化してしまうケースは、残念ながら非常に多いです。

「先代は健康オタクで社員の食事にも気を遣っていたけど、新しい社長は数字第一だから、健康診断のオプションも廃止された...」

なんて話、よく聞きませんか?

これでは、せっかく長年積み上げてきた「人を大切にする」という企業文化が一瞬で崩壊してしまいます。

だからこそ、定款への記載が重要な防波堤になるんです。

株式会社において、定款を変更するには株主総会の特別決議という、法律上非常に重い手続きが必要です。

裏を返せば、一度定款に記載してしまえば、後任の経営者が「面倒だからやめよう」と思っても、そう簡単には削除できない「法的な重し」となるわけです。

これは、創業者が自身の経営哲学を会社という法人格(人格)に埋め込む作業とも言えます。

また、これは後継者である次期社長にとっても、実は非常にありがたいことなんです。

新しい施策を打つ際、古参の役員や株主から「そんな金にならないことをやってどうするんだ」と反対される場面があるかもしれません。

そんな時、定款に『従業員の健康保持増進』が会社の目的として定められています。

これを遵守し、実行するのは取締役としての法的義務です」と主張することができます。

つまり、定款の記載が良い意味での「縛り」となり、健康投資を継続する正当な理由(大義名分)を与えてくれるのです。

事業承継は、単に自社株や不動産といった資産を引き継ぐだけではありません。

「経営理念」や「企業のDNA」をどうやって次世代にバトンタッチするかが、100年続く企業を作るための最大の課題です。

健康経営を定款に刻むことは、従業員の健康と幸せを願う創業者のスピリットを、明文化されたルールとして未来へ繋ぐための、最も確実で効果的な手段なんですよ。

【コピペOK】定款の「目的」変更の具体的な記載例

実際に定款を変更する場合、どのような文言を入れれば良いのでしょうか。

「適当に書いておけばいいや」と思うかもしれませんが、登記される文章には一定のルール(明確性、具体性、営利性、適法性)が求められます。

ここでは、私が実務で提案することの多い、汎用性の高い記載例をご紹介します。会社の事業内容に合わせてアレンジしてみてくださいね。

シンプルに姿勢を示す記載例

まずは、最も標準的かつ多くの企業で採用されている記載例です。

これは、自社が健康経営に取り組むことを対外的に示しつつ、社内で発生する福利厚生費や健康増進のための支出を、「事業遂行上、必要不可欠な経費」として税務署や株主に明確に説明できるようにするためのパターンです。

通常、既存の事業目的のリストの末尾に追加することが一般的ですね。

記載例パターン1

「第2条(目的) 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。

  1. ○○の製造及び販売
  2. ○○に関するコンサルティング業務
  3. 従業員の健康保持増進に関する事業
  4. 前各号に附帯関連する一切の事業

この「従業員の健康保持増進に関する事業」という一行が入っているだけで、法律上の意味合いは大きく変わります。

参考

例えば、会社が費用を負担して社内にトレーニングジムを作ったり、高額な健康セミナーを開催したりする場合を想像してください。

定款に記載がなければ、「それは事業と関係ない、単なる社長の趣味ではないか?」「特定の従業員への給与課税ではないか?」といった税務上のツッコミを受けるリスクがゼロではありません。

しかし、定款に事業目的として明記されていれば、「これは定款第2条第4号に基づく正当な事業活動です」と胸を張って主張できるのです。

また、表現のバリエーションとして、より具体性を持たせたい場合は以下のような書き方も可能です。

  • 「従業員の健康管理及び健康増進に関する業務」
  • 「職場環境の改善及びメンタルヘルスケアに関する業務」

ただし、あまりに限定的な言葉(例:「ヨガ教室の運営」など)を使ってしまうと、それ以外の活動(例:食事指導)が含まれなくなる恐れがあります。

行政書士としての実務的なアドバイスとしては、将来的な活動の広がりを見越して、「〜に関する事業」や「〜に関する業務」といった、ある程度包括的な表現(バスケット条項のような役割)を含めておくのが無難で賢い選択かなと思います。

健康経営コンサルや関連ビジネスを行う場合

もし、自社で培った健康経営のノウハウをパッケージ化して他社に提供するビジネス(コンサルティング、研修講師の派遣など)も視野に入れている場合は、もう少し踏み込んだ、収益事業としての記載が必要です。

会社法上、会社は「定款に定めた目的の範囲内」でのみ権利能力を持つとされています

(目的の範囲外の行為は無効となる可能性があります)。

そのため、対価を得てサービスを提供するなら、明確に記載しておくべきです。

記載例パターン2

  1.  企業の健康経営に関するコンサルティング業務
  2.  健康増進に関するセミナー、講演会の企画及び運営
  3.  従業員の福利厚生及び健康維持に関するサービスの提供
  4.  健康食品及び健康機器の販売
  5. 上記各号に附帯関連する一切の事業」

ここまで詳細に書いておけば、将来的に新規事業として展開する際も非常にスムーズですよ。

「うちは製造業だからコンサルなんて...」と思っていても、ビジネスのチャンスはどこに転がっているかわかりません。

実際に、健康経営優良法人の認定を取得した実績をもとに、同業者向けの「健康経営導入支援サービス」を開始し、本業以上の利益率を叩き出しているクライアント様もいらっしゃいます。

また、注意点として、医療行為や特定の許認可が必要な事業と誤認されるような表現は避ける必要があります。

例えば、「医療」や「治療」、「診療」といった言葉は、医師法や医療法に抵触する可能性があるためNGです。あくまで「健康増進」「ヘルスケアサポート」「生活習慣改善支援」といった、非医療の領域であることを明確にする言葉選びがポイントです。

このあたりの微妙なニュアンス調整は、私たち専門家が最も得意とするところですので、迷ったら相談してくださいね。

定款変更から登記までの具体的な手続きフロー

「よし、定款を変えよう!」と思っても、社長の一存ですぐに書き換えられるわけではありません。株式会社の場合、法律(会社法)に則った厳格な手続きが必要です。

ここをおろそかにすると、後で「手続きに瑕疵(欠陥)があった」として変更が無効になったり、登記申請が却下されたりするリスクがあります。

ここからは、行政書士として実務の流れをステップバイステップで、かつ詳細に解説していきます。

1. 株主総会での特別決議

定款の変更は、株式会社にとって組織の根幹に関わる最重要事項の一つです。

そのため、取締役会の一存では決められず、会社の所有者である株主が集まる「株主総会」での承認が必要です。

しかも、通常の決議(役員の選任など)よりもハードルの高い、「特別決議」という手続きが会社法第309条第2項で義務付けられています。

この特別決議の要件を、もう少し詳しく見てみましょう。

要件内容詳細
定足数

(会議が成立するための最低ライン)

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席すること。

※定款で「3分の1」まで軽減することが可能です。多くの非公開会社ではこの軽減措置を入れていますので、まずは御社の現行定款を確認してみてください。

決議要件

(可決するためのライン)

出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成。

※通常の普通決議(過半数)より厳しい要件です。33.4%以上の反対票を持つ株主がいれば否決できる(拒否権発動)ということになります。

「うちは自分一人しか株主がいないんだけど?」というオーナー社長様も多いですよね。

その場合は、実際に会議室に集まって一人で喋る...必要はありません(笑)。

会社法第319条に基づく「書面決議(みなし決議)」という便利な方法が使えます。

これは、取締役や株主が提案した内容に対し、株主全員が書面または電磁的記録(メールなど)で同意した場合、株主総会の決議があったものとみなす制度です。

実務上は、「提案書」と「同意書」を作成し、それを議事録の代わりとして会社に保管します。

これなら、場所や時間を問わず、スピーディーに手続きが完了します。

ただし、どんなに形式的であっても「株主総会議事録」は必ず作成し、会社の本店に10年間保存する義務があります。

登記申請の際にも添付書類として必須になりますので、開催日時、出席株主数、議決権数、そして「定款の一部変更の件」が承認された旨を正確に記載したものを用意してくださいね。

ここが抜けていると、法務局で門前払いされてしまいます。

(出典:法務省『商業・法人登記関係』

2. 法務局への変更登記申請

株主総会で承認されたら、次は国(法務局)への届け出です。

事業目的(目的)を変更した場合、決議の日(効力発生日)から2週間以内に、会社の本店所在地を管轄する法務局で変更登記の申請を行う必要があります。

この「2週間」という期間は意外と短いです。もし期限を過ぎてしまうと、登記自体は受け付けてもらえますが、後日、代表者個人に対して「過料(かりょう)」という罰金のような制裁が裁判所から通知されることがあるので、スピード感を持って対応しましょう。

登録免許税がかかります

目的変更の登記には、申請1件につき3万円の登録免許税(収入印紙代)がかかります。これは資本金の額や会社の規模に関わらず一律です。

また、ご自身で手続きするのが難しく、司法書士に依頼する場合は、別途数万円程度の報酬が発生しますので、予算として見ておいてください。

具体的な申請の流れと必要書類は以下の通りです。

必要書類一覧

  • 株式会社変更登記申請書:法務局のHPから様式をダウンロードできます。
  • 株主総会議事録:先ほど作成した、定款変更を決議した証拠書類です。
  • 株主リスト:議決権の上位10名の株主、または議決権割合が3分の2に達するまでの株主の氏名・住所・議決権数を記載したリストです。これは反社会的勢力の排除などを目的に義務付けられています。
  • 委任状:代理人(司法書士)に依頼する場合に必要です。

 

  1. 登録免許税の納付
    • 3万円分の収入印紙を郵便局などで購入し、台紙に貼って提出します。
  2. 法務局へ提出
    • 窓口持参、郵送、またはオンライン申請が可能です。最近はオンライン申請が主流になりつつありますが、電子証明書などの準備が必要です。

ここで改めて強調したいのは、「定款の紙を書き換えて終わり」ではなく、登記簿(履歴事項全部証明書)の記載も変わるという点が重要だということです。

登記が完了すると、誰でも(競合他社でも、銀行でも、取引先でも)手数料を払って御社の登記簿を取得すれば、「目的:従業員の健康保持増進に関する事業」という記載を確認できるようになります。

これが、会社が社会に対して公言した「動かぬ証拠」となり、信頼の源泉となるのです。

なお、登記申請手続きの代理は司法書士の独占業務です。

私のような行政書士は、株主総会議事録の作成や定款変更案の起案といった「書類作成業務」までは行えますが、登記申請そのものを代理人として行うことはできません。

必要であれば、提携している信頼できる司法書士の先生をご紹介することも可能ですので、ワンストップで対応したい場合はお気軽にご相談くださいね。

健康経営の導入と定款変更の費用対効果

「手続きも面倒だし、3万円の税金と司法書士への報酬、それに事務的な手間をかけてまでやる価値があるのか?」と、経営者ならシビアにコスト対効果(ROI)を考えるのは当然のことです。

しかし、私の数多くの顧問先での経験上、このコストは非常にリターンの大きい、賢い投資になると断言できます。

最後に、具体的な「お金」と「人」の視点から、その費用対効果について解説します。

採用コストの削減と定着率向上

今、採用市場は完全に「売り手市場」です。

少子高齢化が進む中、特に優秀な若手人材の獲得競争は激化の一途をたどっています。

彼らが就職先を選ぶ際、給与額と同じくらい、あるいはそれ以上に重視しているのが「働きやすさ」や「企業のホワイト度(コンプライアンス遵守)」です。

実際、大手転職サイトの調査などでも、「健康経営に取り組んでいる企業への転職意向」は年々高まっており、「ブラック企業には絶対に入りたくない」という防衛本能が強く働いています。

例えば、求人広告を大手媒体に一度掲載するだけで、安くても20万円〜50万円、採用エージェントを使えば年収の30%(100万円以上)の手数料がかかりますよね。

それでも応募が来ない、あるいは採用しても「思っていた環境と違う」と言ってすぐに辞めてしまう...そんな悩みを抱えていませんか?

そこで、3万円のコストで定款を変更し、「当社は定款に『健康経営』を掲げる、正真正銘の健康重視企業です」と面接や会社説明会でアピールできればどうでしょうか。

「口先だけでなく、会社の憲法レベルで健康を約束している」という事実は、求職者にとって最強の安心材料になります。「この会社なら長く安心して働けそうだ」と感じてもらえれば、応募数の増加や、内定辞退率の低下に直結します。

もし、この定款変更がきっかけで、優秀な人材が一人でも定着してくれれば、それだけで採用コスト数十万円分の元は十分に取れる計算になります。

ブラック企業という言葉が浸透した今、ホワイト企業であることを定款レベルで証明できるのは、実は非常にコストパフォーマンスの良い差別化戦略なんですよ。

(出典:厚生労働省『令和5年若年者雇用実態調査の概況』

助成金や融資でのプラス評価

直接的な「要件」でなくても、金融機関や行政の担当者が会社の登記簿を見た際、目的に「健康保持増進」が入っていれば、心証は確実に良くなります。

銀行員は企業の「持続可能性(倒産リスクの低さ)」を常に見ています。

特に、日本政策金融公庫などの公的融資や、自治体の制度融資においては、企業の社会的責任(CSR)やコンプライアンス体制が定性評価の項目に含まれることがあります。

「しっかりした経営基盤を作ろうとしているな」「従業員を大切にしているから、過労死やメンタルヘルス不調による労働訴訟のリスクが低そうだ」という評価は、巡り巡って資金調達の円滑化や、場合によっては金利優遇などのメリットに繋がる可能性があります。

また、自治体によっては、健康経営の認定を受けている企業に対して、補助金の加点措置を行ったり、公共工事の入札参加資格(経営事項審査)で評価したりするケースも増えています。

そうした申請の際、定款の写しを提出することは多々ありますので、そこに記載があることで、審査担当者に「この会社は形式だけでなく、根本から取り組んでいる」という強いメッセージを伝えることができるのです。

まとめ

定款への記載は、健康経営を単なる「活動」から「企業文化」へと昇華させるための重要なステップです。

  • 対外的な信頼性の向上(ブランディング)
  • 理念の永続的な継承と後継者へのバトン
  • 採用力の強化と離職防止によるコスト削減

これらが3万円+αの手間で手に入ると考えれば、やらない手はありません。手続き自体は行政書士や司法書士に相談すればスムーズに進みますので、ぜひ前向きに検討してみてくださいね。

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的な正確性を保証するものではありません。具体的な手続きや税務・法務の判断については、管轄の法務局や税務署、司法書士等の専門家にご相談の上、自己責任で行ってください。

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