法人口座・銀行審査

個人事業主が口座を分けない時の仕訳とリスク対策を徹底解説

行政書士 小野馨
こんにちは。1番わかる電子定款の教科書、運営者の行政書士の小野馨です。

個人事業主として開業したばかりの頃は、プライベートの口座と事業用の口座を分けるのが面倒で、ついそのまま使い続けてしまうことってありますよね。

でも、確定申告の時期が近づくと、生活費の引き出しやプライベートな買い物が混ざった通帳を見て、どうやって仕訳をすればいいのか途方に暮れてしまう方も多いのではないでしょうか。

実は、口座が一緒でも勘定科目を正しく使えば記帳は可能ですが、そこには税務調査で指摘されやすくなるリスクも潜んでいるんです。

今回は、そんな口座を分けずに管理している方が直面する仕訳の悩みや、事業主借と事業主貸の使い分け、さらには税務署対策としての家事按分の考え方まで、実務経験をもとにわかりやすく解説していきます。

  • 口座が混合している場合の「事業主借」「事業主貸」の正確な使い分け
  • 生活費やプライベート資金が混在する通帳の効率的な記帳テクニック
  • 税務調査で指摘されないための領収書管理と家事按分の具体的ルール
  • 将来的なリスクを回避するために屋号付き口座を開設するメリット

個人事業主で口座を分けない時の仕訳と基礎

「とりあえず個人の口座で始めちゃったけど、これってどうやって帳簿につければいいの?」という疑問、本当によく耳にします。

ポイント

実は、口座を分けていなくても、会計上の「ある特別な科目」を使えば、きちんと処理することは可能なんですよ。

ここでは、公私混同しがちな通帳を前にして、パニックにならずに済む基本的な考え方と、具体的な仕訳のルールについてお話ししますね。

口座を分けないで確定申告する際の勘定科目

まず最初に覚えておいてほしいのが、個人事業主特有の2つの勘定科目です。

これさえマスターすれば、プライベートと事業のお金がごちゃ混ぜになっていても、会計ソフト上で綺麗に整理できます。

「簿記なんてわからないよ!」という方でも、この2つだけは絶対に避けて通れないので、じっくり読んでみてくださいね。

個人事業主だけの特殊ルール「事業主勘定」

法人(会社)の場合、社長と会社は法的に別の人格なので、お金の貸し借りは「役員借入金」「役員貸付金」といった科目を使います。

しかし、個人事業主の場合、「事業主であるあなた」と「プライベートのあなた」は同一人物ですよね。同一人物間でお金の貸し借りを契約することはできません。

そこで登場するのが、便宜的に財布を分けるための概念、「事業主借(じぎょうぬしかり)」「事業主貸(じぎょうぬしかし)」です。

ここがポイント!

名前が似ていてややこしいですが、主体を「事業(お店)」に置いて考えるとスッキリします。

  • 事業主借:事業が、あなた(個人)からお金を借りた=「ポケットマネーを事業に入れた」
  • 事業主貸:事業が、あなた(個人)にお金を貸した=「事業のお金を生活費に使った」

消費税区分「対象外」の重要性

もう一つ、実務で非常に重要なのが「消費税区分」です。この「事業主借」と「事業主貸」を使った取引は、あくまで自分の中での資金移動に過ぎません。外部との取引ではないため、消費税は発生しないのです。会計ソフトに入力する際は、必ず税区分が「対象外(不課税)」になっているか確認してください。ここを間違えて「課税仕入」などにしてしまうと、消費税の納税額計算が狂ってしまい、後で修正申告が必要になるなんていう大惨事を招きかねません。

なお、記帳のルールや青色申告の仕組みについては、国税庁のガイドラインも非常に参考になります。基本的なルールを一度確認しておくと、迷いがなくなりますよ。

(出典:国税庁『青色申告制度の概要』)

生活費やプライベート資金の管理と方法

口座を一つにしていると、売上の入金があった翌日にスーパーで食料品を買ったり、家賃が引き落とされたりと、通帳の明細行がすごいことになりますよね。

これを全部「経費」や「売上」として処理しようとすると、間違いなく破綻します。

「通帳を見るのも嫌だ」という状態になる前に、管理のルールを決めましょう。

「事業に関係ないもの」の処理ルールを決める

管理の最大のコツは、「事業に関係ない入出金は、すべて事業主勘定で処理して深く考えない」と割り切ることです。

プライベートな買い物の内容(食費なのか、服代なのか、遊び代なのか)をいちいち家計簿のように細かく分類する必要は、事業の帳簿には一切ありません。

参考

例えば、通帳に以下のような出金があったとします。

  • スーパーで食材購入:3,500円
  • ユニクロで普段着購入:5,000円
  • 週末の映画代:2,000円

これらは全て、まとめて「事業主貸」でOKです。

摘要欄(メモ)も「生活費」や「私用」と書いておけば十分です。

ここで真面目な人ほど「食費」「被服費」などと書こうとしますが、事業の決算書には何の関係もない情報なので、時間をかけるだけ損ですよ。

プライベート支出が多い場合の弊害と対策

とはいえ、通帳の明細がプライベートな支払いで埋め尽くされていると、税理士や税務署職員が見たときに「公私混同が激しいな」という印象を与えてしまいます。

また、会計ソフトへの入力行数が増えれば増えるほど、プランによってはソフトの利用料金が上がったり、税理士への支払報酬が高くなったりすることもあります。

最低限やっておきたい対策

もし今すぐ口座を分けるのが難しい場合でも、せめて「クレジットカード」だけは事業用と私用で分けることを強くおすすめします。

プライベートな買い物は個人のカードで、事業の経費は事業用カード(または特定の1枚)で決済するようにすれば、通帳には「カード引き落とし」の履歴が一行残るだけになり、明細のごちゃごちゃを一気に解消できます。

事業主借を使って事業用経費を処理する

「事業主借」は、個人事業主の強い味方です。

簡単に言えば「個人のポケットマネーで事業の経費を支払ったとき」に使う科目ですが、これを使いこなせると、現金の管理やレシートの処理がグッと楽になります。

「現金出納帳」をつけるのが面倒な人は、この事業主借を活用することで、現金管理から解放されることもあるんですよ。

事業主借が発生する具体的なシチュエーション

「事業主借」が登場するのは、主に次のような場面です。

  • 現金払い:手持ちのプライベート財布から、急な出張費や文房具代を支払ったとき。
  • 資金補充:事業用口座の残高が足りなくなり、個人の定期預金を解約して10万円を入金したとき。
  • 個人クレカ決済:まだ事業用カードを作っておらず、個人の楽天カードやPayPayなどで備品を買ったとき。
  • ポイント払い:個人のポイントを使って事務用品を買ったとき(※処理方法は諸説ありますが、事業主借として処理するのが簡便です)。

仕訳の具体例をマスターしよう

これらはすべて、事業側から見れば「個人(事業主)から資金調達をして支払った」という形になります。

借方には「経費の科目」、貸方には「事業主借」が来ます。具体的な仕訳を見てみましょう。

取引内容借方(左側)貸方(右側)解説とポイント
私費で消耗品購入消耗品費 1,000事業主借 1,000「現金」を減らすのではなく「事業主借」を増やすのがコツ。現金残高合わせが不要になります。
資金補充(入金)普通預金 100,000事業主借 100,000売上ではないので「対象外」。ここを「売上」にすると税金を払いすぎることになります。
個人クレカでPC購入消耗品費 150,000事業主借 150,00010万円以上の資産計上が必要な場合も、相手科目は事業主借でOKです。

このように、「事業主借」が増えること自体は悪いことではありません。むしろ、事業のために個人資産を投入したという証拠になります。

ただし、あまりにも多額の事業主借があり、かつ事業が赤字の場合は、「生活費はどうやって捻出しているの?」と税務署に疑問を持たれる可能性もあるので、全体のバランス感覚は必要です。

事業主貸で個人的な引き出しを記帳する

一方で「事業主貸」は、「事業のお金をプライベートに使ったとき」に使います。口座を分けていない方が一番頻繁に使うのがこの科目です。

「給料」という概念がない個人事業主にとって、この事業主貸こそが、実質的な「手取り給料」の引き出しにあたります。

生活費だけじゃない!事業主貸になる支出たち

「生活費を引き出した時だけ使えばいいんでしょ?」と思っていると、思わぬ落とし穴があります。実は、

以下のような支払いも、経費ではなく「事業主貸」として処理しなければなりません。

  • 生活費の引き出し:ATMで現金を下ろした、生活用口座へ振り替えた場合など。
  • 個人的な支払い:事業用口座から引き落とされた自宅の電気代、ガス代、水道代、子供の学費など。
  • 税金や社会保険料:住民税、所得税、国民健康保険料、国民年金、ふるさと納税など。※これらは「租税公課」などの経費にはなりません。確定申告書の「控除」欄で処理するものであり、事業の経費ではないため、帳簿上はすべて「事業主貸」になります。

仕訳パターンと融資への影響

基本的な仕訳は以下のようになります。

取引内容借方(左側)貸方(右側)解説
生活費引き出し事業主貸 50,000普通預金 50,000摘要には「生活費」と記載。
所得税の納付事業主貸 100,000普通預金 100,000「租税公課」にするミスが多いので注意!事業税や固定資産税(事業用)は経費になりますが、所得税・住民税は経費になりません。

【重要】銀行融資を考えている方へ

「事業主貸」があまりにも多すぎると、金融機関から「この事業主は、事業のお金を使い込んでいる(公私混同が激しい)」と判断され、審査で不利になることがあります。

特に、利益が出ているのに現金が残っていない場合、過度な生活費の引き出しが原因であることが多いです。

事業を拡大するために融資を検討しているなら、適切な「役員報酬(のような定額引き出し)」を設定し、無秩序な引き出しを控えることが重要です。

事業主借と事業主貸を相殺する決算処理

「一年間記帳していたら、事業主貸と事業主借がすごい金額になってしまった…これって来年もずっと残るの?」と不安になる方もいるかもしれませんが、安心してください。

これらは決算(確定申告)のタイミングで整理し、翌年には持ち越しません。

「元入金」というブラックボックスで相殺する

個人事業主には、法人でいう「資本金」にあたる「元入金(もといれきん)」という独特の勘定科目があります。

法人の資本金は基本的に変わりませんが、個人の元入金は、事業の成績とプライベートな資金移動の結果を受けて、毎年変動します。

具体的には、翌年の1月1日に以下の計算式でリセット(相殺)処理を行います。

翌期首の元入金の計算式

期首の元入金 + 青色申告特別控除前の所得 + 事業主借 - 事業主貸 = 翌期の元入金

この計算により、事業主貸と事業主借の残高はゼロになり、その差額が新しい元入金としてスタートします。

つまり、一年間のプライベートな貸し借りの精算がここで行われるわけです。

元入金がマイナスになったら?

計算の結果、元入金がマイナスになることがあります。

これを「債務超過」の状態と言いますが、個人事業主の場合は直ちに倒産や違法状態を意味するわけではありません。

「事業で稼いだ利益以上に、生活費としてお金を使ってしまった」あるいは「開業当初で借入金が多く、資産より負債の方が多い」という状態を示しています。

税務署からすぐに指摘されることは稀ですが、銀行融資を受ける際にはマイナス要因となるため、黒字化して元入金をプラスに戻していく努力が必要です。

最近のクラウド会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)では、年度更新(繰越処理)のボタンを押すだけで、この複雑な計算と仕訳を自動で行ってくれるものがほとんどです。

手動で計算する必要はあまりありませんが、「仕組み」を知っておくことで決算書への理解が深まります。

混ざった口座の入出金を整理するコツ

口座が一つしかないと、通帳の明細が「売上」「経費」「生活費」「個人的な入金」でカオス状態になりますよね。

これを効率よくさばくためのコツを伝授します。ここをサボると、確定申告直前に地獄を見ることになります。

「不明入金」は税務調査の格好の餌食

最も避けなければならないのは、「入金があったけれど、これが何のお金かわからない」という状態です。

支出に関しては、領収書がなければ最悪「事業主貸(プライベート)」として処理すれば税金は増えますが、脱税にはなりません。

しかし、入金に関しては「何のお金か分からない」は命取りです。

税務調査が入った際、内容不明の入金は「計上漏れの売上」とみなされる可能性が非常に高いからです。

たまたま親から借りたお金や、友人の結婚式の立替金が返ってきただけでも、証拠がなければ「売上隠し」と疑われてしまいます。

実践的!通帳整理の3ステップ

口座を分けられないなら、以下の3つの習慣だけは徹底してください。

チェックリスト

  • 記帳したら即メモ書き:ATMで記帳したら、その足で通帳を開き、鉛筆で内容を書き込みます。「生活費」「〇〇さんより返済」「メルカリ売上(私物)」など、記憶が鮮明なうちに記録します。
  • ネットバンキングの活用:紙の通帳ではなく、ネットバンキングならCSVデータで明細をダウンロードできます。これをExcelに取り込み、「事業用」「私用」というフラグを立てて並べ替えれば、集計作業が一瞬で終わります。
  • リコンサイル(残高合わせ)の実施:月末時点で、帳簿上の預金残高と、実際の通帳残高が一致しているか必ず確認します。口座を分けていないとズレやすいですが、このズレを毎月解消しておかないと、年末に原因不明の差額に泣くことになります。

個人事業主が口座を分けない仕訳のリスク対策

ここまでは「どう記帳するか」というテクニックの話でしたが、ここからは専門家として、口座を分けないことで生じる「リスク」と、その「守り方」について、少し踏み込んだお話をします。

「面倒だから」で済ませていると、後で高い授業料を払うことになるかもしれませんよ。

事業主借は経費にならない税務上の注意

よく勘違いされる方がいるのですが、「事業主借」という勘定科目自体は、経費(費用)ではありません。

これを理解していないと、節税のつもりで無意味な仕訳をしてしまうことになります。

「お金を入れただけ」では経費にならない

例えば、事業用口座の残高が寂しいからといって、個人のへそくりから100万円を入金したとします。

仕訳: (借方)普通預金 100万円 / (貸方)事業主借 100万円

この仕訳を見て、「よし、事業主借が100万円立ったから、これで利益が圧縮できる!」と思うのは大きな間違いです。これは単に「現金」が「預金」に場所を変えただけであり、経費(消耗品費や旅費交通費など)は一切発生していません。税金は1円も安くならないのです。

経費になるのは「借方」の科目のみ

経費として認められるのは、以下のように借方に「費用科目」が来た時だけです。

  • (借方)消耗品費 1,000円 / (貸方)事業主借 1,000円
  • (借方)旅費交通費 5,000円 / (貸方)事業主借 5,000円

つまり、「事業主借」はあくまで支払いの「出処」を示すものであり、節税効果を持つのは相手方にある「勘定科目」だということを忘れないでください。

ここを混同して、「事業主借を増やせば税金が減る」という誤った情報のまま申告すると、税務調査で全額否認されることになります。

税務調査でプライベート口座が見られる理由

「個人の口座なんて、プライベートなものなんだから、税務署に見られるわけないでしょ?」と思っていませんか?

残念ながら、その認識は非常に危険です。

特に口座を分けていない場合、あなたの通帳は税務署にとって「宝の山」に見えているかもしれません。

公私混同は「隠蔽」の温床と見なされる

事業用とプライベートの口座を分けていない場合、税務調査官は「生活費の流れ」を見るために、あなたの口座をほぼ確実に見ることになります。

調査官の思考プロセス

調査官はこう考えます。

「この人は一つの口座で全部やりくりしている。ということは、プライベートな旅行代を経費(取材費など)に紛れ込ませているかもしれない」

「逆に、個人的な入金と偽って、実はコッソリ受け取った売上(現金手渡し分など)を隠しているかもしれない」

つまり、口座が混ざっていること自体が、「不正を隠しやすい環境」と見なされ、通常よりも厳しい疑いの目を向けられる原因になるのです。

拒否権はない?銀行への反面調査

「通帳は見せません」と突っぱねることはできるのでしょうか?

実質的には不可能です。税務署には「質問検査権」という強力な権限があり、さらに金融機関に対して直接照会をかけることができます(反面調査)。

あなたが通帳を隠したとしても、税務署は銀行から過去数年分の取引履歴を直接取り寄せて、丸裸にすることができます。

隠そうとする姿勢は「悪質」と判断され、重加算税(35%〜40%のペナルティ税)の対象になりやすくなるため、絶対にやめましょう。

証憑整理で税務署への対策を徹底する

では、口座を分けていない状態で、どうやって身を守ればいいのでしょうか。

最強の防衛策は、「証憑(しょうひょう)の徹底管理」です。

「口座はごちゃごちゃだけど、書類だけは完璧です」と言える状態を作れば、調査官も文句は言えません。

「何に使ったか」を説明できる証拠を残す

証憑とは、領収書、請求書、納品書、通帳のコピー、契約書などの「取引の事実を証明する書類」のことです。

口座の中身がカオスでも、一つ一つの取引について「これは事業用、これは私用」と明確に紐付けができれば問題ありません。

  • 事業用の支出:レシート・領収書を必ず保管し、余白に具体的な内容(「〇〇様との打ち合わせ時のコーヒー代」など)をメモ書きする。
  • 事業主借での支払い:個人の財布から出した場合でも、必ずレシートをもらい、会計ソフト入力時に「事業主借」として処理する。
  • クレジットカード:毎月届く(またはDLする)明細書を印刷し、事業経費に該当する行に蛍光ペンでラインを引き、対応する領収書とセットで保管する。

保存期間は原則7年

ちなみに、これらの書類は確定申告が終わったら捨てていいわけではありません。青色申告の場合、原則として7年間の保存義務があります。

段ボール箱でもいいので、年ごとにまとめて保管しておきましょう。

税務調査は忘れた頃(3年〜5年後)にやってきます。「見られても困らない状態」を常に作っておくことが、一番の対策です。

家事按分を明確にして経費否認を防ぐ

自宅兼事務所の家賃や、プライベートでも使うスマホ代、電気代、自動車関連費用などは、事業で使っている分だけを経費にする「家事按分(かじあんぶん)」が必要です。

口座が混ざっていると、この按分計算がおろそかになりがちですが、ここが税務調査の主戦場の一つです。

「なんとなく50%」は通用しない

税務調査で「これ、本当に事業で使ってるんですか?なんで50%なんですか?」と突っ込まれたとき、「えっと、なんとなく半分くらい仕事してるかなと思って…」では、即座に否認されます。税務署が求めているのは「客観的かつ合理的な基準」です。

この基準をメモして残そう

以下のような計算根拠をあらかじめ作成し、文書として残しておきましょう。

家賃・電気代:「総床面積50㎡のうち、仕事専用の部屋が15㎡なので、30%を経費計上します」

通信費(スマホ):「通話明細を確認したところ、週の稼働時間や業務通話の頻度から考えて40%が妥当です」

ガソリン代:「業務日報の走行距離記録に基づき、全走行距離の60%を事業用とします」

この根拠がしっかりしていれば、たとえ口座から生活費と一緒に引き落とされていても、「これは事業に必要な経費です」と堂々と主張できます。

屋号付き口座を作って分けるメリット

ここまで、口座を分けない場合の対処法や防衛策をお話ししてきましたが、行政書士として、そして一人の経営者として本音を言えば、「やっぱり口座は分けたほうが絶対にいい」です。

苦労して複雑な仕訳や証拠作りをするよりも、分けてしまった方が圧倒的に楽だからです。

社会的信用と管理コストの削減

最大のメリットは、「社会的信用の向上」です。

取引先から報酬を振り込んでもらう際、口座名義が「ヤマダ タロウ」などの個人名だけよりも、「ヤマダデザイン ヤマダ タロウ」のように屋号が入っている方が、「あ、ちゃんとした事業者なんだな」「趣味じゃなくてビジネスとしてやっているんだな」という安心感を与えられます。

また、口座を分けることで、以下のメリットも生まれます。

  • 会計ソフト連携:事業用口座だけをAPI連携すれば、プライベートな明細をいちいち除外する手間がゼロになります。
  • 融資対策:事業資金の流れがクリアになり、銀行からの評価が上がりやすくなります。
  • 税務調査リスク低減:「公私混同していない」という姿勢を示すことができ、調査官の心証が良くなります。

最近は、GMOあおぞらネット銀行やPayPay銀行、楽天銀行などのネット銀行であれば、開業届の控えなどがあればスマホ一つで比較的簡単に屋号付き口座を作れます。

まだの方は、ぜひ次の一歩として検討してみてください。

個人事業主が口座を分けない仕訳をする総括

最後に、今回のポイントをまとめます。

口座を分けずに運用することは、決して法律で「禁止」されているわけではありませんが、管理の手間と税務リスクは確実に高まります。

  • 事業主借・事業主貸をマスターする:プライベート資金の出入りはこれで処理し、消費税区分は必ず「対象外」にする。
  • 不明入金をなくす:通帳のメモ書きを徹底し、1円たりとも使途不明金を作らない。
  • 証拠を残す:「なぜこれが経費なのか」を説明できるよう、領収書整理と家事按分の根拠を文書化する。
  • 最終的には分けるのが正解:手間とリスクを減らし、信用を得るために、屋号付き口座の開設を目指す。

最初は大変かもしれませんが、これらを意識して日々の記帳を行うことが、あなたとあなたの事業を守ることに繋がります。

「知らなかった」で損をしないよう、今日からできることから始めてみてくださいね。

なお、税務判断は個別の事情によりますので、不安な点があれば税理士などの専門家にご相談されることをおすすめします。

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