会社設立・法人化

公証役場で電子認証!定款認証の費用と流れをプロが解説

 

公証役場 定款印象

行政書士 小野馨

こんにちは

電子定款の実績5000件の行政書士の小野馨です。

今回は、公証役場での電子認証について詳しく解説します。

会社設立の準備を進めているあなたにとって、最初の大きな山場となるのが公証役場での定款認証ではないでしょうか。

特に初めての起業だと、手続きの流れや費用の相場、さらには必要な書類の準備まで、わからないことだらけで不安になりますよね。

私も開業当初は、分厚い法律書と格闘しながら、何度も公証役場に電話をして確認した経験があります。

最近では電子定款を選ぶことで、収入印紙代の4万円を節約する方法が主流になってきましたが、自分でやるには少しハードルが高いと感じている方も多いかもしれません。

この記事では、公証役場の管轄や予約の方法から、テレビ電話を使った最新の認証システムまで、現場のプロが噛み砕いてお伝えします。

専門用語の壁を取り払い、あなたがスムーズに手続きを完了できるようサポートしますので、ぜひ最後までお付き合いください。

  • 株式会社と合同会社における定款認証の違いとコスト構造がわかります
  • 電子定款を活用して収入印紙代4万円を合法的に節約する手順を理解できます
  • 認証当日の流れや、事前に準備すべき書類と機材が明確になります
  • 公証役場でよくある失敗事例を知り、トラブルを未然に防ぐことができます

公証役場での定款認証に必要な費用や書類の流れ

会社設立において、定款認証は避けて通れない重要なステップです。

ここでは、法人の種類によるルールの違いや、具体的に発生する費用の内訳、そして手続きの全体像について解説します。

全体像を把握しておくことで、無駄な出費や手戻りを防ぐことができますよ。

株式会社と合同会社における認証要件の違い

まず最初に押さえておきたいのが、あなたが設立しようとしている会社の種類によって、公証役場での手続きが必要かどうかが変わるという点です。

ここを間違えると、スケジュールが大幅に狂ってしまいますので、しっかりと理解しておきましょう。

結論から申し上げますと、株式会社を設立する場合、公証人による定款の認証は「必須」です。

これは、会社法第30条において「定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない」と明確に定められている絶対的なルールだからです。

注意ポイント

なぜ、これほど厳格なのかというと、株式会社は不特定多数の人から出資を募る可能性があるため、設立当初からその基本規則(定款)の正当性を第三者である公証人がチェックし、後々のトラブルや不正な会社設立を防ぐ必要があるからです。

一方で、近年人気の合同会社(LLC)の場合、定款認証は「不要」です。ここが大きな違いですね。

合同会社は「人のつながり」を重視する持分会社という性質上、定款の作成自体は義務ですが、公証役場に出向いて手数料を払って認証を受ける必要はありません。

そのため、スモールスタートで初期費用を抑えたい方や、自分一人で小さく始める副業の法人化などには、合同会社が選ばれることが多いのです。

【注意】合同会社でも印紙代はかかります

「合同会社なら認証不要だから、全部0円で済む!」と思われがちですが、それは少し違います。

合同会社であっても、定款を「紙」で作成した場合は、印紙税法に基づく課税文書となり、収入印紙代4万円がかかります。

認証手数料(約3〜5万円)は0円でも、印紙税は発生するのです。これを回避して完全にコストを抑えるためには、合同会社であっても「電子定款」を作成する必要があります。

このように、法人の形態によって手続きの重さが全く異なります。

社会的信用や資金調達の面で有利な「株式会社」を選ぶか、設立コストとスピードを重視した「合同会社」を選ぶか。

定款認証の手間とコストは、その判断材料の一つになるはずです。

(出典:e-Gov法令検索『会社法』

認証にかかる手数料や収入印紙代の費用内訳

「結局、公証役場にいくら現金を持っていけばいいの?」というのは、最も気になるポイントですよね。株式会社の定款認証にかかる費用は、かつては一律でしたが、現在は起業促進のために改正され、少し複雑になっています。費用は主に以下の3つで構成されています。

費目金額(目安)内容・備考
① 認証手数料30,000円

〜50,000円

公証人に支払う手数料。資本金の額により3段階に変動します。
② 収入印紙代40,000円

または 0円

国に納める印紙税。

紙の定款は4万円、電子定款は非課税で0円。

③ 謄本交付手数料約2,000円認証後、登記申請用や保存用に定款の写し(謄本)をもらうための費用。

1枚につき250円。

まず、①の認証手数料について詳しく見ていきましょう。これは資本金の額に応じて以下の3段階に分かれています。

  • 資本金100万円未満:30,000円
  • 資本金100万円以上300万円未満:40,000円
  • 資本金300万円以上:50,000円

ここで一つ、プロならではの注意点をお伝えします。「資本金の額等が定款に記載されていない場合」や、「最低額(金〇〇円以上)のみ記載されている場合」は、資本金額が確定していないとみなされ、手数料は一律で「その他」扱いの50,000円になってしまいます。手数料を安く抑えたいのであれば、定款には明確な資本金額を記載するか、低い区分に収まるように設計するのが賢い方法です。

次に②の収入印紙代ですが、ここが最大の節約ポイントです。紙の定款には4万円の収入印紙を貼る義務がありますが、PDFデータで作成する「電子定款」であれば、印紙税法上の「文書」に該当しないため非課税(0円)となります。手数料と合わせると、電子化するだけで最大で約9万円かかるところを、約3万円〜5万円程度に抑えられる計算になります。

最後に③の謄本交付手数料です。認証が終わった後、会社保存用と登記申請用に「謄本」をもらう必要がありますが、これは枚数課金です。一般的な定款の分量(A4で8〜10枚程度)であれば、2,000円〜2,500円程度になることが多いですね。公証役場ではクレジットカードが使えない場所もまだ多いため、これらの合計金額を余裕を持って現金で用意しておくことが大切です。

(出典:日本公証人連合会『定款認証』

認証に必要な書類や印鑑証明書の準備

公証役場へ行く日(またはテレビ電話認証の日)が決まったら、手元に揃えておくべき書類を完璧に整理しましょう。一つでも足りないと、認証が受けられずに出直しになってしまう可能性があります。特に、発起人が複数いる場合や、代理人を立てる場合は書類が増えますので注意が必要です。

基本セットとして必要なものは以下の通りです。

  • 定款 3通(紙の場合)公証役場保存用、会社保存用、登記申請用の3通です。それぞれに発起人全員の実印での押印と、ページ間の契印(割印)が必要です。※電子認証の場合は、事前にデータを送信し、保存用メディア(CD-RやUSBメモリなど)を持参します。役場によっては空のCD-Rで良い場合もありますが、念のためデータを入れたものを持参するのが無難です。
  • 発起人全員の印鑑証明書発行から3ヶ月以内のものが必要です。これは非常に厳格なルールです。「少し前に不動産契約で取ったやつがあったはず…」と古いものを持っていくと、期限切れで却下されます。また、認証後に法務局へ登記申請する際にも有効期限内である必要がありますので、あまり早く取得しすぎてもいけません。
  • 発起人の実印もし当日に定款の誤字脱字が見つかった場合、その場で訂正印を押すことで修正できることがあります。そのために、認証当日に来る発起人の実印は必ず持参しましょう。
  • 本人確認書類運転免許証、マイナンバーカードなど、顔写真付きの公的証明書を持参してください。
  • 実質的支配者となるべき者の申告書(後述しますが、これも必須書類です)
  • 現金前述の手数料等を支払うために必要です。

代理人が行く場合の落とし穴

発起人本人が行けず、代理人に依頼する場合は、上記に加えて「委任状」「代理人の本人確認書類(免許証+認印、または印鑑証明書+実印)」が必要です。委任状には、発起人の実印が押されている必要があります。この委任状の不備が原因で手続きが止まるケースが非常に多いので、必ず公証役場指定のフォーマットか、専門家が作成したものを利用しましょう。

認証時に必須の実質的支配者となるべき者の申告

2018年11月から、公証役場での定款認証手続きにおいて、新たなルールが追加されました。それが、マネーロンダリングやテロ資金供与対策の一環として義務付けられた「実質的支配者となるべき者の申告」です。名前がいかめしいので身構えてしまうかもしれませんが、要は「この会社を裏で操っている黒幕はいませんか?実質的なオーナーは誰ですか?」ということを公証人に正直に申告する手続きです。

具体的に「実質的支配者」とは誰を指すのでしょうか。基本的には以下の基準で判断されます。

  1. 議決権の50%超を保有する個人がいる場合、その人。
  2. 上記がいない場合、議決権の25%超を保有する個人。
  3. 上記もいない場合、事業活動に支配的な影響力を有する個人(代表取締役など)。

例えば、あなたが一人で発起人となり、100%出資して社長になるのであれば、あなた自身が実質的支配者となります。この場合、「実質的支配者となるべき者の申告書」という書類を作成し、自分の氏名・住所・生年月日等を記載して、定款認証の際に提出します。

公証人はこの申告書に基づき、その人物が暴力団員や国際テロリスト等に該当しないかをデータベースで照合します。もし虚偽の申告を行ったり、説明を拒否したりした場合は、公証人は定款認証を拒否することができます。つまり、この申告書を出さないと会社が作れない仕組みになっているのです。形式的な書類に見えますが、嘘偽りなく正確に記載することが求められる重要な法定書類であることを認識しておいてください。

(出典:法務省『実質的支配者リスト制度』

管轄の公証役場や予約に関するルール

「よし、書類も揃ったし、会社の近くの公証役場に行こう!」と思っても、ちょっと待ってください。公証役場には厳格な「管轄(かんかつ)」のルールがあります。ここを間違えると、認証自体が無効になってしまいます。

原則として、定款認証は「会社の本店所在地を管轄する法務局(地方法務局)に所属する公証人」でなければ行えません。これは「都道府県単位」と考えると分かりやすいでしょう。

管轄の具体例

  • 東京都千代田区に本店を置く会社を作る場合→ 東京都内にある公証役場(丸の内、渋谷、新宿、八王子など)ならどこでもOKです。
  • 神奈川県横浜市に本店を置く会社を作る場合→ 神奈川県内にある公証役場に行かなければなりません。どんなに東京の役場が近くても、県をまたぐとNGです。

また、公証役場は基本的に「完全予約制」と考えてください。フラッと立ち寄って「定款認証お願いします」と言っても、公証人が不在だったり、他の予約で埋まっていたりして、門前払いされることがほとんどです。特に月末や年度末、大安の日などは混雑します。

予約の方法は、電話で行うのが一般的ですが、最近ではWebサイトから予約状況を確認して申し込みができる役場も増えてきました。まずは「〇〇県 公証役場」で検索し、管轄内の行きやすい役場を見つけて、早めに電話を入れるのがスムーズに進めるコツです。「会社設立の定款認証をお願いしたいのですが」と伝えれば、担当者が丁寧に案内してくれますよ。

定款案の事前確認から当日の認証までの流れ

定款認証を失敗なく、最短で終わらせるための鉄則。それは「事前確認(プレチェック)」を受けることです。いきなり本番の認証日に書類を持っていくのではなく、事前にFAXやメールで定款案を送り、公証人に内容をチェックしてもらうプロセスを挟むのです。実は現在、ほとんどの公証役場がこの事前確認を推奨(事実上の必須化)しています。

具体的な流れは以下のようになります。

  1. 定款案の作成まずはWordなどで定款のドラフト(案)を作成します。
  2. 事前確認の依頼管轄の公証役場に電話し、「事前確認をお願いしたい」と伝えます。送付先のメールアドレスやFAX番号を教えてくれます。
  3. 公証人によるチェックと修正メール等で定款案と印鑑証明書の写しを送付します。数日中に公証人から連絡があり、「ここの文言は法律上おかしいので直してください」「住所表記を印鑑証明書通りに修正してください」といった細かい指摘が入ります。
  4. 内容の確定と本番予約指摘通りに修正し、内容が「OK」となった段階で、初めて公証役場に行く(またはテレビ電話認証を行う)日時を予約します。
  5. 電子署名・送信(電子定款の場合)内容が確定したら、PDFに変換して電子署名を付与し、法務省のオンラインシステムで送信します。
  6. 認証・受取予約した日時に公証役場へ行き、原本の確認と署名を行い、認証済みの定款データを受け取ります。

この「事前確認」を経由することで、当日は内容の審査が済んでいる状態なので、本人確認と署名、手数料の支払いだけで済み、所要時間は15分〜20分程度で終わります。逆にこれを行わないと、当日に重大なミスが見つかり、認証できずに帰されるリスクが高まります。私は必ずこのステップをお客様に推奨しています。

代理人に依頼する場合の委任状と注意点

発起人全員が平日の日中に公証役場に行ければベストですが、お仕事の都合などで難しい場合もありますよね。その場合は代理人に依頼することも可能です。代理人は、共同発起人の一人でも構いませんし、親族や知人でも可能です(ただし、業として報酬を得て行う場合は行政書士等の資格が必要です)。

代理人が手続きを行うには、「発起人からの実印が押された委任状」が必要です。この委任状において、最も重要なテクニックが「捨印(すていん)」です。

もし定款の内容に誤字脱字が見つかった場合、代理人に訂正権限がないと、一度持ち帰って発起人の実印を押し直さなければなりません。これでは二度手間、三度手間になってしまいます。そこで、委任状の欄外に発起人の実印で「捨印」を押しておき、委任事項の中に「定款の訂正に関する一切の権限」を含めておくのです。こうすることで、軽微なミスであれば、その場で代理人が訂正して手続きを完了させることができます。

電子定款の代理申請について

電子定款の場合、代理申請は行政書士などの専門家が行うことが一般的です。なぜなら、代理人が電子定款の送信を行う場合、代理人自身の電子署名環境が必要になるからです。友人に頼むことも不可能ではありませんが、専用ソフトのセットアップや電子署名の環境設定の手間を考えると、現実的ではありません。「電子定款を代理でやるならプロに依頼」「自分でやるなら発起人本人が申請」のどちらかが基本ルートだと考えてください。

公証役場で定款認証を電子化して安く済ませる方法

ここからは、コスト削減の切り札である「電子定款」に特化して解説します。紙代もインク代もかからず、何より4万円の節約になる電子定款。ITツールを駆使して、賢く会社設立費用を抑える方法を深掘りしていきましょう。

電子定款なら収入印紙代4万円が不要になる

先ほども触れましたが、改めて強調しておきます。電子定款の最大のメリットは収入印紙代4万円が完全にゼロになることです。これは、印紙税法上の「文書」とは紙の書類を指し、PDFのような電磁的記録(データ)は「文書」に当たらないという法的解釈に基づいています。

資本金が小さく、初期費用をカツカツで計算している起業家にとって、この4万円は非常に大きいですよね。4万円あれば、会社のロゴをデザイナーに発注したり、立派な実印を作ったり、あるいはクラウド会計ソフトの年間契約料に充てたりすることもできます。そのため、現在では多くのスタートアップ企業や個人起業家が、迷わず電子定款を選択しています。むしろ、特別な理由がない限り「紙の定款」を選ぶメリットは今の時代ほとんどないと言っても過言ではありません。

自分で電子署名を行うためのソフトと機材

「4万円浮くなら電子定款一択!さっそくやろう!」と意気込むのは素晴らしいことですが、ここには少し高い技術的なハードルがあります。自分で電子定款を作成し、法的な効力を持つ「電子署名」を付与するには、以下のIT環境を自力で整える必要があります。

必要なもの役割・注意点
① マイナンバーカード「署名用電子証明書」が格納されているもの。

有効期限(5年)が切れていないか確認が必要です。

② ICカードリーダーマイナンバーカードをPCに読み込ませるためのハードウェア。

家電量販店やAmazonで3,000円前後で購入できます。スマホで代用できる場合もありますが、PCでの作業が安定します。

③ Adobe Acrobat

(有料版)

PDF編集ソフト。無料の「Reader」ではなく、「Standard」または「Pro」という有料版が必要です(月額1,500円〜2,000円程度)。

※無料版でも署名できる方法は存在しますが、法務省のプラグインとの相性問題が多発するため推奨されません。

④ PDF署名プラグイン法務省の「登記・供託オンライン申請システム」からダウンロードできる専用ソフトウェア。

これをAcrobatに組み込むことで、法務省が認める形式での署名が可能になります。

コストと手間のバランスに注意

よくある落とし穴が「Adobe Acrobat」のライセンス料です。「無料のReaderでできると思ったのに…」と、結局有料版を契約し、カードリーダーも買い、慣れないソフトの操作に数日悩み…となると、コストメリットが薄れてしまいます。ご自身のITスキルに自信があり、「こういう設定作業が好き」という方にはDIYをおすすめしますが、「パソコンは苦手」という方は、最初から電子定款に対応した会社設立サービスや専門家を利用したほうが、結果的に安く・早くなるケースも多いですよ。

公証役場へ行かずに済むテレビ電話認証

定款認証の手続きにおいて、近年最も革命的だったのが「テレビ電話認証」の導入です。これまで、どんなに忙しくても、平日の日中に公証役場まで足を運び、公証人の面前で本人確認を行わなければなりませんでした。しかし、制度改正により、自宅やオフィスのパソコン、あるいはスマートフォンを使って、オンラインで公証人と面談し、認証を受けられるようになったのです。

「わざわざ役場に行かなくていいなんて、最高じゃないか!」と思われたあなた。確かにその通りなのですが、現場の実務を知る私からすると、手放しで喜べない「落とし穴」も存在します。ここでは、テレビ電話認証のリアルな手順と、意外と知られていない注意点を包み隠さずお話しします。

テレビ電話認証の具体的な流れと必要環境

まず、この制度を利用するためには、カメラとマイクが付いた端末(PC、スマホ、タブレット)が必要です。ZoomやSkypeを使うと思われがちですが、公証役場ではセキュリティの観点から「FaceHub(フェイスハブ)」などの指定されたWeb会議システムを使うことが一般的です(アプリのインストール不要で、ブラウザで動くケースが多いです)。

【当日の標準的な流れ】

  1. 予約とURLの受領事前に公証役場へ「テレビ電話で認証したい」と伝え、日時を予約します。後ほど、公証人から接続用のURLがメールで届きます。
  2. 接続テスト当日スムーズに進めるため、事前にマイクやカメラが正常に動作するか、指定されたURLでテストを行います。
  3. 当日の面談(認証)予約時間になったらURLにアクセスします。画面越しに公証人と挨拶を交わし、本人確認を行います。「免許証をカメラに近づけてください」「少し斜めにして厚みを見せてください」「マスクを外して顔を見せてください」といった指示がありますので、それに従います。
  4. 電子署名の付与本人確認が完了すると、公証人がその場で定款データに電子署名を付与してくれます。これで認証手続き自体は完了です。

完全オンラインの罠:郵送が必要になるケース

ここで非常に重要なポイントをお伝えします。「テレビ電話認証=完全ペーパーレス」とは限らないということです。

もし、発起人であるあなた自身がマイナンバーカードを使って電子署名し、あなた自身がオンライン申請を行い、あなた自身がテレビ電話で面談を受けるなら、完全オンラインで完結します(電子署名した委任状等が不要なため)。

しかし、もし「定款作成や電子署名は行政書士に任せた(代理人申請)」けれど、「公証役場に行くのは面倒だから、発起人の本人確認だけテレビ電話で済ませたい」というケースではどうでしょうか。この場合、発起人は代理人に対して紙の委任状を作成し、実印を押しているはずです。

この「紙の委任状」と「印鑑証明書の原本」は、認証の当日までに公証人の手元になければなりません。つまり、事前に公証役場へ郵送(レターパック等)しておく必要があるのです。

「えっ、結局郵送する手間がかかるの?」と思われましたよね。その通りなんです。郵送の日数(1〜2日)を計算に入れておかないと、「今日テレビ電話したのに、書類が届いていないから認証できません」ということになりかねません。急いでいる場合は、結局タクシーで公証役場に行ったほうが早い、ということも多々ありますので、ご自身のスケジュールと相談して決めてくださいね。

(出典:法務省『テレビ電話を用いた定款認証制度』

認証後の定款謄本の取得と手数料の計算

無事に認証が終わって、「よし、これで会社が作れる!」とPCを閉じようとしているあなた。ちょっと待ってください。定款認証は、「認証されたデータを受け取って終わり」ではありません。その後の登記申請や、会社設立後の銀行口座開設のために、「定款の謄本(とうほん)」を取得するという重要なミッションが残っています。

なぜ「謄本」が必要なのか?

電子定款の場合、認証されると「公証人の電子署名が入ったPDFデータ」が返却されます。これをそのままオンライン登記申請に使うことは可能です。しかし、実務上は紙の謄本が必要になる場面が多々あります。

  • 法務局への登記申請(紙申請の場合)オンラインではなく、窓口や郵送で登記申請をする場合は、認証済みの定款謄本(紙)を提出する必要があります。
  • 法人口座の開設これが一番の理由です。会社設立後に銀行で口座を作ろうとすると、ほぼ100%「定款のコピー」を求められます。この時、単なるWordを印刷したものではなく、「公証人の認証文が入った正式な定款謄本」でないと受け付けてくれない銀行が多いのです。

そのため、私はお客様に対し、認証と同時に必ず「定款謄本を2通(会社保存用・登記用)」取得することをおすすめしています。

謄本手数料の計算式と支払い方法

この謄本代は、認証手数料(3万〜5万円)とは別料金です。計算式は以下の通りです。

【謄本交付手数料の計算】

1枚につき250円

(例)定款の本文がA4サイズで8枚、表紙と裏表紙で2枚、合計10枚の場合

250円 × 10枚 = 2,500円(1通あたり)

通常は2通取得しますので、2,500円 × 2通 = 5,000円程度がかかります。これを、基本の認証手数料と合わせて公証役場の窓口で支払います。

ここで注意したいのが「支払いは現金のみ」という公証役場がまだ多いことです(最近はキャッシュレス対応の役場も増えましたが、事前に確認が必要です)。「5万円あれば足りるだろう」と思って行ったら、謄本代を含めると5万5千円になり、「財布に現金がない!」と焦って近くのATMに走る……なんていうのは、起業家あるあるです。現金は少し多めに、千円札も崩して持っていくのがスマートですよ。

データの受け取りもお忘れなく

また、電子定款の場合、認証された「原本データ」を受け取るためのメディアも必要です。基本的には新品のCD-Rを持参することが推奨されています(USBメモリはウイルス感染リスクの観点から不可とする役場もあります)。公証人が認証データをCD-Rに書き込んで渡してくれますので、これを大切に保管してください。このデータこそが、あなたの会社の憲法とも言える最も重要なオリジナルデータになります。

認証時に発生しやすい失敗や却下理由

「完璧に準備したつもりだったのに、公証役場で門前払いされた…」。そんな悲劇は絶対に避けたいですよね。ここでは、法務省の実態調査や私の実務経験に基づき、定款認証でつまずきやすいポイントと、最悪の場合「却下(認証拒否)」になってしまうケースを具体的に解説します。

法務省データに見る「却下」のリアル

法務省の調査によると、定款認証の依頼があったものの、最終的に認証に至らなかった(却下または取り下げ)事案は全体の約0.5%存在します。「たった0.5%?」と思うかもしれませんが、これは「事前相談の段階で諦めた人」を除いた数字であり、現場ではもっと多くのトラブルが起きています。

主な却下・取り下げ理由は以下の通りです。

  • 実態のないバーチャルオフィス本店所在地に指定した住所に建物が存在しない、あるいは居住実態が全く確認できないケース。公証人はGoogleマップ等で建物の外観を確認することもあります。「ペーパーカンパニーによる犯罪利用ではないか?」と疑われると、追加の疎明資料(賃貸借契約書など)を求められ、出せない場合は却下となります。
  • 目的の違法性「誰でも絶対に儲かる投資スキームの販売」など、公序良俗に反する内容や、法律で禁止されている事業を目的に掲げている場合です。
  • 実質的支配者の申告拒否前述した「実質的支配者」の申告を行わない、あるいは虚偽の申告をした場合も、即座に手続きはストップします。

(出典:法務省『定款認証に関する実態調査』

ユーザーが陥りやすい「うっかりミス」TOP3

却下まではいかなくても、当日に「訂正してください」「出直してください」と言われやすいミスには傾向があります。

順位ミスの内容対策
1位住所の記載ミス

「1丁目2番3号」を「1-2-3」と書いたり、マンション名を勝手に省略したりするケース。

定款の住所・氏名は、手元の印鑑証明書と「一字一句」同じにしてください。「斎藤」と「齊藤」の違いなども厳しく見られます。
2位電子署名のエラー

Acrobatの設定不備で署名検証ができない、またはマイナンバーカードのパスワードロック。

署名後は必ずプロパティを開き、「署名は有効です」と表示されるか確認しましょう。Adobeの無料版ではなく有料版環境で行うのが確実です。
3位印鑑証明書の期限切れ

「3ヶ月以内」の期限を1日でも過ぎると無効です。

認証日(公証役場に行く日)を基準に逆算して取得しましょう。

特に住所の記載ミスは本当によくあります。私たちは普段、住所を簡略化して書く癖がついていますが、登記手続きにおいてそれは通用しません。印鑑証明書という「正解」が手元にあるのですから、それを横に置いて、指差し確認しながら入力することをおすすめします。

公証役場での定款認証まとめ

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。最後に、公証役場での定款認証について、重要なポイントを振り返りましょう。

  • 株式会社は必須、合同会社は不要まず自分がどちらの法人を作るのかを確認しましょう。合同会社でも紙定款だと4万円かかるので注意が必要です。
  • 電子定款で4万円のコストカット今の時代、紙の定款を選ぶメリットはほぼありません。電子定款で賢く節約しましょう。
  • DIYかプロ依頼か自分でやるなら「カードリーダー」「Adobe有料版」「セットアップの手間」が必要です。これらを面倒だと感じるなら、電子定款に対応した設立代行サービスや専門家に頼むのも賢い経営判断です。
  • 事前確認(プレチェック)は絶対いきなり行かずに、必ず事前にメール等で定款案を見てもらいましょう。これが最短ルートです。

定款認証は、あなたの会社が社会的に認められるための第一歩です。最初は難しく感じるかもしれませんが、一つひとつの手続きには意味があり、それをクリアすることで経営者としての覚悟も定まってくるはずです。

今は公証役場もデジタル化が進み、以前よりずっと利用しやすくなっています。この記事をガイドマップ代わりにして、あなたが無事に認証を終え、素晴らしいスタートダッシュを切れることを心から応援しています。手続きの中で迷うことがあれば、遠慮なく管轄の公証役場や専門家に相談してくださいね。

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