

今回は、取締役の任期は2年?10年?【会社法】の原則と失敗しない決め方というテーマでお話します。
これから会社を作ろうと定款の準備を進めているあなたは、取締役の任期を何年に設定するかで迷っていませんか。
会社法のルールでは原則として2年と決まっていますが、非公開会社なら定款で最長10年まで伸長できることはよく知られています。
ネットで検索すると、コスト削減のために10年に変更するのがお得だという情報もたくさん出てきますよね。
でも、本当に10年にしてしまって大丈夫なのか、途中で解任したくなったらどうなるのか、損害賠償のリスクはないのかなど、不安に思うこともあるはずです。
この記事では、会社法の条文や判例に基づいた正しい知識と、あなたの会社の状況に合わせたベストな任期の決め方について解説します。
- 会社法の原則と定款で任期を10年に延ばすメリット
- 10年任期を選んだ場合に発生する法的なリスクと損害賠償
- みなし解散や監査役との任期のズレによる落とし穴
- 家族経営か共同創業かで判断する最適な任期の年数
取締役の任期について会社法が定める原則と変更ルール
まずは、会社法という法律で取締役の任期がどう決められているのか、その基本ルールを押さえておきましょう。
ここを理解しておかないと、そもそも定款に何を書けばいいのか判断できませんからね。
2年という原則と譲渡制限会社の特例
会社法第332条第1項では、取締役の任期は「選任後2年」と定められています。
正確に言うと、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」です。
ちょっと法律用語で堅苦しいですが、要するに「約2年に1回は、この人にまた経営を任せていいか?という信任投票(改選)をしなさい」というのが原則なんですね。
上場企業のような大きな会社では、株主がたくさんいて経営状況も厳しくチェックされるので、この「2年」というサイクル(あるいはもっと短い1年)が一般的です。
非公開会社なら最長10年まで伸長可能
「えっ、2年ごとに登記しなきゃいけないの? 面倒くさい!」
そう思ったあなた、安心してください。これから皆さんが作るような中小企業のほとんどは、この任期を最長10年まで延ばすことができます。
会社法第332条第2項の特例
株式の譲渡制限に関する定めがある株式会社(非公開会社)は、定款によって取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができる。
「株式の譲渡制限」というのは、簡単に言えば「知らない人に勝手に株を売ってはいけない」というルールのこと。
一般的な中小企業は100%このルールを定款に入れますから、実質的に「1年〜10年の間で自由に決められる」と考えて問題ありません。
重任登記のコストを削減できるメリット
では、なぜ多くの起業家が「任期10年」を選ぶのでしょうか?
答えはシンプルで、「お金と手間が浮くから」です。
取締役の任期が満了すると、たとえ同じ人が社長を続ける場合でも、法務局で「重任(じゅうにん)登記」という手続きが必要になります。
これには必ず「登録免許税」という税金がかかります。
- 資本金1億円以下の場合: 1万円
- (司法書士に依頼する場合): +数万円の報酬
| 任期設定 | 10年間での登記回数 | 最低コスト(税金のみ) |
|---|---|---|
| 2年の場合 | 5回 | 5万円 |
| 10年の場合 | 1回 | 1万円 |
このように、10年設定にするだけで最低でも4万円、司法書士報酬も含めれば10万円以上の節約になります。
「どうせ自分一人でやる会社だし、役所への支払いは減らしたい」という場合、10年を選ぶのは経済的に合理的な判断と言えますね。
監査役の任期は4年なのでズレに注意
ここで一つ、行政書士ならではの落とし穴ポイントをお伝えします。
もしあなたの会社に「監査役」を置く場合、監査役の任期は原則4年(最長10年)です。
取締役を10年に設定しても、監査役の任期をデフォルトの4年のままにしてしまうと、4年後、8年後に監査役の登記が必要になってしまいます。
「あれ? 取締役は10年だから何もしなくていいと思ってた!」と油断していると、監査役の登記忘れで過料(罰金)を取られることも。
役員構成を考えるときは、取締役と監査役の任期を揃えておく(例えば両方10年にする)のが、管理を楽にするコツですよ。
選任後に短縮する場合の手続きと注意点
「最初は10年にしたけど、やっぱり2年に戻したい」
そんなふうに後から変更することも可能です。この場合は「定款変更」の手続きを行います。
株主総会の特別決議で定款を変更すれば、任期を短縮できます。
ただし注意が必要なのは、「短縮したことによって、現在の役員の任期が満了してしまう場合」です。
例えば、すでに就任から3年経っている状態で、任期を「10年」から「2年」に変更すると、その瞬間に任期切れ(退任)となります。
これを知らずに定款だけ変えてしまうと、勝手に役員が辞めたことになってしまい、登記懈怠(とうきけたい)などのトラブルになるので注意してくださいね。
株式譲渡制限会社での設定変更の流れ
具体的な手続きの流れとしては、以下のようになります。
- 株主総会の開催: 定款変更(任期の変更)を決議します。
- 議事録の作成: 変更内容を記録します。
- 定款の書き換え: 電子定款ならデータの修正、紙の定款なら変更の経緯を保存します。
- (任期満了者がいる場合): 改選手続きと登記申請を行います。
電子定款であれば、最初からWordファイルなどで条文を作っているはずですから、その数字を書き換えるだけでOKです。難しいことではありませんよ。
取締役の任期に関する会社法上のリスクと判例
さて、ここからがこの記事の本題であり、私が一番伝えたいことです。
「コストが浮くからとりあえず10年」というのは、自分一人(または家族だけ)でやるなら正解です。
しかし、友人との共同創業や、外部から役員を招く会社が「任期10年」にするのは、ハッキリ言って危険すぎます。
解任に正当な理由がないと損害賠償される
会社法339条では、「株主総会の決議によって、いつでも役員を解任できる(クビにできる)」とあります。
「なんだ、気に入らなければ解任すればいいじゃん」と思いますよね?
しかし、同条第2項には恐ろしい条件が書かれています。
会社法第339条第2項
前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
ここで言う「正当な理由」というのは、横領などの犯罪行為や、心身の故障で仕事ができないといったレベルの話です。
注意ポイント
「能力不足」「性格が合わない」「業績が悪い」といった理由では、正当な理由として認められない判例が多数あります。
つまり、「使えないからクビ」という経営者の言い分は、裁判では「それを見抜けずに選んだ株主(あなた)の責任ですよね?」と返されてしまい、賠償命令が出るリスクが高いのです。
判例が認める損害賠償請求の範囲と金額
では、もし裁判で負けた場合、いくら払うことになるのでしょうか。
判例(東京地裁などの通説)では、損害の範囲は「解任されなければ在任中に得られたはずの利益(残りの任期分の報酬全額)」とされています。
具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。
【恐怖のシミュレーション】
- 役員報酬:月額50万円(年収600万円)
- 契約した任期:10年
- 解任時期:2年目(残り8年)
損害賠償額 = 50万円 × 96ヶ月(8年) = 4,800万円
たった数万円の登記費用をケチったために、家が買えるほどの賠償金を背負うリスクがあるんです。
これがもし任期「2年」であれば、次の更新(満了)まで待って「再任しない」という形で、0円で平和的に契約終了できたはずなんです。
放置すると472条でみなし解散の対象に
もう一つのリスクは、「会社が勝手に消される」というものです。任期が長いと、どうしても登記手続きのことを忘れてしまいます。
会社法472条には「みなし解散」という制度があります。
これは、最後の登記から12年間何もしないで放置している株式会社について、「もう活動していないだろう」と国が判断し、職権で強制的に解散登記をされてしまうというものです。
「10年任期だから大丈夫」と思っていても、10年後の重任登記をうっかり忘れて2年経つと、あっという間に12年です。
ズボラな人ほど、10年任期は会社消滅のリスクが高いと言えるかもしれません。
家族経営か他人とかで異なる判断基準
ここまで怖い話をしましたが、全ての会社が2年にすべきとは言いません。
あなたの会社の形態に合わせて、以下のように決めるのがベストです。
ケースA:自分ひとり、または家族(配偶者・親・子)のみ
👉 推奨:【10年】
家族経営の場合、内輪揉めで「損害賠償請求」に発展するリスクは低いです。万が一喧嘩をしても、家族会議で解決しやすいでしょう。この場合は、迷わずコスト削減(重任登記の節約)を優先してOKです。
ケースB:友人との共同創業、または他人が役員に入る
👉 推奨:【2年】(長くても1〜5年)
ここが一番のポイントです。「友人だからこそ、契約はドライに」すべきです。
創業時は意気投合していても、5年、10年経てば人間関係や家庭環境、経営方針は必ず変わります。「辞めてほしいのに辞めさせられない」という状態は、会社を潰しかねません。
多少の登記コスト(数万円)を払ってでも、「2年ごとに契約を見直せる(お互いにリセットできる)」というカードを持っておくことが、最大のリスクヘッジになります。
まとめ:会社法における取締役の任期の決め方
取締役の任期は、単なる事務手続きではなく、将来のリスク管理そのものです。
- コスト優先なら10年(ただし家族経営に限る)
- リスク回避優先なら2年(他人が入るなら絶対こっち)
この基準で選べば、大きな失敗はありません。
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会社設立や電子定款認証のスペシャリスト!開業17年・年間実績500件以上。実は、電子定款の制度ができた10年以上前から電子定款認証の業務を行なっているパイオニアです!他との違いは、まず定款の完成度!内容はモデル定款のモデルと言われ全国数百箇所の公証人の目が入っている優れもの!そして電子署名はまるでサインのようなかっこいい電子署名です!その電子定款であなたの大切な会社設立を真心込めて応援します!
